- #価値探索
株式会社永和システムマネジメント

「仮説検証型アジャイル開発」導入事例
永和システムマネジメント様が取り組んでいた大きな課題は「魚市場のせりでの記帳作業をアプリで効率化する」こと。複雑を極めるセリの現場で使えるアプリはどのようにあるべきか。ギルドワークスはまず魚市場を訪れ、現場を観察した上で
価値探索をすすめました。さらに繰り返しプロトタイプを持ち込んで実地検証をすすめ、アプリの方向性決定に貢献しました。
中堅受託システム開発企業にあって「自社のストックビジネスを作る」というミッションを持っている未来企画室。
まったくツテがなかった業界で、どのように新規事業のアイデアを見つけ、ギルドワークスと共に仮説検証を進めていったのか?
「ギルドカンファレンス2018」にてお話しいただきました。
登壇者
羽根田 洋様(株式会社永和システムマネジメント 未来企画室室長)
未来企画室とは

羽根田様(以下敬称略):永和システムマネジメントは受託が中心の開発企業です。私は元は受託システム開発の営業なので、どうやって仕事を取るかについては考えていたのですが、徐々にはみ出して、お客様に「新しくこういうのやりませんか」と提案したり、逆にお客様から、「受託で発注できる予算はないんですが、こういうのをやりたい、何かできませんか?」というようなお話をいただくことが多くなっていました。
それを会社の中で言っていたら、昨年「新規事業開発の部署を作るので、そこでやってみるか」となり、未来企画室に従事することになりました。
弊社の受託システム開発は非常に伸びており、そのまま伸ばしていくのもいいのですが、自社のストックビジネスも欲しい。それを作るのが未来企画室のミッションです。
つまり、自分たちでビジネスを企画して、やってみて、大きくしてみなさいという部署です。
##未来企画室の活動
未来企画室の活動構成は「事業づくり」「仕組みづくり」「文化づくり」の3本柱です。
「事業づくり」「仕組みづくり」は未来企画室だけでやる取り組みではなく、全社横断でいろんな事業部から企画を募って、強みを活かした新しいビジネスを作っていくのですが、弊社はこれまでずっと受託のビジネスをやってきたので、新しいビジネスアイデアがいきなり出てこない。
そこで「やりたいことをやってもいいんだよ」という雰囲気、文化づくりを行い、最終的には「こういう企画で開発していくといいんじゃないか」みたいなものが出てきてきました。これをぐるぐる回してきていきます。
去年1年間、社内コラボレーションが10個生まれ、社内での事業アイデアが22個、事業計画は9つ上がり、さらに文化づくりとして4つのイベントを行いました。
事業としては、まだ世に出ていないものがほとんどですが、医療の新しいプロダクトやVRだったり、Google G Suiteを活用したサービスがあります。新しい視点に特化したWEBチャットツール、スクラムの事業、などなどいくつかは、β版リリースなり世に出すことができました。
今日はその中から福井県の水産業のあるところからお話をいただいて、「鮮魚の流通の効率化と、データビジネスの可能性」というお話をしたいと思います。
今日のアジェンダは4つ。
・問題の検証……問題をどうやって検証していったのか?
・解決手段の検証……どんな活動をして解決手段を検証していったのか?
・対運用の検証……実際の運用で試してみてどのようにフィードバックを得るのか?
・事業アイデアの収集……事業アイデアというものはどうやったら収集できるのか?
実体験を元にしているので、環境によって違うかもしれませんが、言いたいことは、問題は現場で起きているので、社内で考えるのではなく、ユーザーになりそうな人の話を聞きに行き、その結果をフィードバックすることが大事なんだなと改めて気づかされた、という話です。
社内での仮説検証をどう進めるのか、市谷さんの発表資料を一部参考にさせてもらうと、企画作り、ニーズ検証、プロダクト開発、マネタイズ、の4つのフェーズがあります。
キレイに分けられるわけではなく、同時進行になりますが、今回市谷さんと一緒にやらせてもらって、それぞれのフェーズでやることが見えてきて、非常に参考になりました。
・企画作り
まずざっくり仮説を立案して「本当に他のところでも問題が再現するのだろうか?」とか「深刻度はどれくらいあるのだろうか?」を観察やインタビューで検証します。
・ニーズ検証
その次は、問題の解決手段として、実際に動くものを作るまではいかないんですが、モックだったり、技術検証して「本当にこの解決手段が適切なのか?」というのを調べていきます。
・プロダクト開発
プロトタイプを実際のお客様に使ってもらって、本当に運用に耐えられるのかを検証します。
・マネタイズ
最後は、商用版を開発して行きますが、マネタイズまでいった企画がまだないので、今回はおもにプロダクト開発までの話になります。
##問題の検証

仮説立案ですが、今回対象にしているのはセリを行なっている現場で、そもそもの問題を一言で言うと、紙文化なんですね。その場で取り引きが成立するのですが、取り引きを全部手書きでノートに書いてます。
そのため、同じものがダブっていたり、突き合わせが必要だったり。整合が合わなかったり、そもそも探しにくいなど、とても時間がかかります。実際にセリの動画を見ていただくと分かりやすいんですが……(セリの動画再生)
発泡スチロールの中に魚が入っていて、その中にセリ落とした人が「いくらでセリ落としたよ」を示す金額を入れています。この一生懸命メモしている人は「サゴシという魚を800円でセリ落としてそれをどこに売ったよ」みたいなことをひたすら紙に書いています。これをみんなが書き、突き合わせて、他の人は何をどこにいくらで売ったのか清書してからシステムに入力する。すごい仕事のやり方ですね。
朝4時にセリが始まった時からのメモをまとめて、入力し終わるのが遅いと午後2時らしいんです。この帳面作りに忙殺されます。
紙でシステムに入力しているので間違いがある。トラブルが発生するとこんな時間帯になるのです。毎日やってるので、かなり疲弊しています。
本来は本業に付加価値をつけていきたい、6次化を進めていきたいなど、やりたい/やらなければならないことは沢山あるのに、できない。まずは紙が主体ってところからだろう。こういったことを、いったんざっくり仮説としてまとめました。
##ニーズ検証

ざっくり仮説がまとまってから、市谷さんに合流してもらい、この仮説が本当にあってるのかを観察やインタビューしていきます。それぞれが全部仮説なので「これは本当なの?」というのを1個ずつ検証していくということです。
水産業って奥が深く、ものすごいバリューチェーンが長くてですね。漁師とか仲卸さんとか卸とか、後には小売が出てくるのですが、市谷さんから「とりあえず全部インタビューしてください」と言われました。まず最初にぶつかった問題が、検証先をどうやって探すか。僕、水産業に知り合いがいない。そもそもそんな業界を選ぶなよ、って話なんですが(笑)。
いろいろ探しました。ビザスクというスポットコンサルをお願いできるところで探してみたら、1人だけ京都の仲卸の人がいて、その人に会いに京都行くことになったり。弊社のオールメールという全員にメールを出す仕組みで投げかけたら、1人だけ「自分の友達の友達が水産業やっています」って紹介してくれて、静岡の焼津に行ったりとか。
あとは、社内でつながりをたくさん持っている人に「こういうのやり始めたんですよ」と言ったら、知り合いの水産向けのパッケージを出してるところを紹介してくれたりもしました。
セミナーや展示会に参加するのも良いと思いました。弊社は富士通さんとのつながりが大きく、富士通パートナー会の「得意技投入会」に行ったところ、参加者に水産業をテーマにしている会社が2社程ありました。直ぐにアポイントを取って話を聞きに行くと、めちゃめちゃ業界で有名な人だったんですね。人が人を呼ぶんだなってすごく感じました。
人脈ハブになる人にも聞きました。これは市谷さんですね。Facebookに投稿してもらって「良い反応が来たよ」とかもありました。
いろいろ探して、最終的に聞いたのが親戚でした。僕の嫁のいとこが、山口県の港町に住んでいるんですが「地元の漁師いっぱいいるよ!紹介するよ」って2、3日アテンドしてくれました。
実は彼女はスナックのママだったんです。漁師はスナックに集まるそうなので「このビジネスを広める時にはスナック回らなあかんな」と思ってます(笑)。
このように検証先を探し、1週間かけて全国を回り、様々なフィードバックを得ました。
まず「二重入力問題で帳面作りに時間がかかる」と僕は聞いていたんですが、よくよく聞いてみると「担当割りされているので二重入力ってあんまり起きていないんですよね」と簡単に言われて、めちゃくちゃ話が違う。
唖然としたのは、他県で「うちの県とはやり方が違う、そんなの聞いたことないよ」と言われました。帳面作りの問題は他県の仲卸には、そんなに深刻じゃないということが分かりました。
早くも頓挫するのかな……と考えながら、更に聞いてくと、卸会社との突き合わせに時間がかかるという問題は他県にもありました。
販売先に早く確定した請求額を教えないと売上げがキャッシュとして入ってこないので「できる限り早く知りたい」というニーズは再現性がありました。本当に現場で聞くのは大切です。
その結果、2段階で考えているんですが、1つはセリを効率化する。卸と仲卸の付き合わせをどれだけ楽にするのか。2つ目は元々「スーパーとかにデータを販売すると良いかな?」という話はしていたんですが、スーパーなどの小売より、産地市場と中央市場との間の情報をつなぐのが良いと分かり、ビジネスモデル的にまとまりました。
問題の再現性や深刻度が分かってくるのとほぼ同時並行で、モックやスパイクを使って、どんな解決手段が良いのかを検証しました。
「手書きのメモをどうやって簡単に電子化するのか?」ということになるのですが、考えられる解決手段は、世の中の事例も含めて、手書きOCRを使う、タブレットアプリを作る、タブレットからデータ入力するようにする、音声認識や写真データで取り引き状態を貯めるとかですね。
これらを検証していきました。
最初に言われていた、二重入力問題の帳面作りに時間がかかるという段階では、まずは「紙を辞めて、最初からタブレットで入力したら良いんじゃないんですか?」という話をしました。しかし、ITに苦手意識があるので「紙を辞めるのはなかなか難しい」という話になり、「では、紙に書いたメモをOCRで電子化するのはどうですか?」というところまで行っていたんですね。
福井にいる仲卸さんには、僕が説明しているビデオを送りました。ただ話だけだと、相手はITに詳しくないので「え?」ってなるんですよ。
なので「紙をスキャナーで読み取ると、画像データがフォルダに入ってきます。それをOCRのサービスにかけると、手書きメモが読み込めるんですよ」と、見せながら「本当に業務で使えそうですか?」という話をししました。その結果「なかなか業務は変えられない」ということで手書きOCRはダメだ、ということになりました。
その次に「スマホで撮影した写真をベースに販売先を登録する」というような案を出しました。最初からメモを辞めて、その取り引きを全部写真に収める。例えば、仕入れの際に写真を撮れば、どこがセリ落として、いくらで、なんの魚なのか、後からWEBシステムで写真を見ながら入力でき、手書きの情報をいちいち電卓叩いて集計することもなくなります。
「こういうアプリはどうですか?」って話しだけでなく、簡単なモックを作りました。これが採用されて、写真で商品を撮っていくやり方に決まりました。実際に作り始めれば、ものすごい投資になるんですが、その前段階で手軽に状況を見せて検証できた結果かなと思ってます。
後編ではプロトタイプによる仮説検証と事業アイデアの収集ついてお伝えします。
こんなことでお悩みの方はお気軽にお問い合わせください。ギルドワークスのメンバーがお話をお聞きします。
- 立ちあげたい事業があるが、本当に価値があるのかどうか自分で確信が持てない
- 新規事業を立ち上げなければならなくなったが、潤沢な予算があるわけでもないのでどうしたらよいのかわからない
- 企画が実現可能かどうか開発の視点を組み入れながら仮説検証したい
- はじめてのことばかりで右も左もわからない