本当のエンジニアの仕事とは何か、現場コーチが教えてくれた(お客様インタビュー第3回目)

  • #開発現場コーチング

株式会社オズビジョン

## お客様インタビュー:株式会社オズビジョン 橋本様・倉澤様(前半)

2007年にポイントメディア事業からスタートした株式会社オズビジョン様。
その開発チームでエンジニア兼スクラムマスターとして日々奮闘している橋本さんと倉澤さん。ともに入社数年の若手が、なぜスクラムマスターを目指すことになったのか、現場コーチの影響はどんなものだったのか、お話をうかがいました。
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スクラムマスターの仕事とは

-スクラムマスターというのはどういうお仕事ですか?

橋本様(以下敬称略):スクラムマスターは、スクラムの理論・プラクティスを守ってもらうように働きかける役割です。開発チームが問題を放置したり、改善できていないところに対して「ここおかしいよね」と投げかけたり、「今こういう状態だよね」ってわかるように見せたりするのも役割の1つです。

中村:いわゆるプロジェクトマネージャーではないんですね。イマイチなプロジェクトマネージャーは「あれやれ、これやれ」「遅れているじゃないか、どうするか対策を考えろ、頑張れ」と指揮命令しがちです。
スクラムマスターはチームが良い仕事をできるような場作りをしたり、「遅れてるから何とかせえ」ではなくて「遅れているように見えるんだけど」と伝えて気づいてもらい、どうするかはチームで考えて判断してもらう。うまくやる責任はチームにあります。時には厳しいことも伝えることもありますが、基本はサーバントリーダーシップ※の特性が求められるのがスクラムマスターの1つの特徴です。
※サーバントリーダーシップ=ロバート・グリーンリーフ(1904~1990)が1970年に提唱した「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後に相手を導くものである」というリーダーシップ哲学。

-業務上の不都合や不合理を整理整頓して皆がやりやすいようにするという役割でしょうか?

中村:ざっくり言うとそうです。「このタスク、あとちょっとで終わります」という会話はよくありますし、それを聞くとみんなわかった気になるじゃないですか。でも、スクラムマスターはそこで別の人に「”ちょっと”って何時間だと思います?」と聞きます。その人は「1時間ぐらい」と言う。で、同じ質問を他の人にもすると「3時間」「30分ぐらい」とバラバラの答えが返ってきます。「ちょっと」の認識がまったく違う状態で進めると「ちょっとって言ってたけど、どうなったの?」ってなります。
マネージャーなら「ちょっとじゃなくて30分って言いなさい」とか言う。それでも良いかもしれませんが、スクラムマスターはそれをできるだけ自分達で気づいてもらうように問いかけをしたりもします。「ちょっと」という曖昧な言葉で進むと、プロジェクトはうまくいかないことをチームが学べば「具体的な言葉で言おう」と自分達で改善する。そうなるよう促すのも仕事です。

-開発の現場では一般的なんですか?

橋本:まだ一部かなとは思ってるんですが。

中村:アジャイルな開発現場でScrumという開発フレームワークを使っているなら、必要な役割ですね。

橋本:当時、Scrumを導入していなかったオズビジョンにはなかったのですが、今では社内でスクラムマスターって言ったらこんな仕事、この人だよね、という存在にはなっています。

中村:橋本さんがスクラムマスターになるという話が出たとき、彼は若いし、チームも10人ぐらいいたこともあり、1人はしんどいので2人体制で相談しながらやれるといいなと探していました。そうこうしているうちに倉澤さんが手あげてくれて、2人体制でスクラムマスターをはじめてもらったんです。

-なぜ、スクラムマスターに手を挙げたんですか?

倉澤様(以下敬称略):中村さんがうちの会社に来て、1年間ぐらいは全く別のチームでやっていました。そんな中「このチームにはスクラムマスターが必要やから、やったら良いやん」って言われて「やろうかな」と…というのがきっかけです。チームが働きやすい方向にもっていこうと真剣に考える役目があっても良いんじゃないか、それがスクラムマスターという役割なら、やってみようかなというのが最初です。

中村:彼女には「チームを良くしたい、自分自身も含めた働きやすい環境を作りたい」という情熱があり、それでスクラムマスターに向いてるね、って話はしてましたね。

-みんなのことを考えるのは、スクラムマスターに大事な資質なんですか?

中村:大事ですね。いつもの声と少し違って体調悪そうとか、チームに何が起きているかなどに気づくことは必要ですね。そして気になることがあった時にちゃんと働きかけることも必要です。

-家庭で言うとお母さん?

中村:そういう側面もありますね。

やりがいが変わった

-中村さんの第一印象は?

橋本:お話するようになってから、包み隠さず言うと「うわぁすごい細かい、これすごい苦しい」って思ってました。それ以前は仕事の仕方がすごい大雑把で、ゆるい状態で仕事をするのに慣れていたので。

-どんな苦しさですか?

橋本:以前はアサインされた仕事をこなして「ああ今日も終わったー」みたいな仕事の仕方だったのですが、中村さんは「こうなっているけどどう思うの?」「どうなってんの?」とか、自分で考えないと答えられないポイントをバシバシ突いてくる。しかも答えを教えてくれるわけではない。自分で考えなきゃいけない大変さがありました。

中村:なぜやるのか、上手くやる方法はないかなど「とにかく考えてほしい」って何度も言ましたね。

橋本:中村さんは「どうなってんの?」って聞いて、自分で考えざるを得ない状態にして立ち去って行く。考えて、思いつかなかったらヒントを貰いに行ったり、中村さんが「こういう状況に見えるけどどうですか?」って質問してくれたりとか、どんどん自分で考えるように仕向けてくれたので、すごく考えるようになりました。

-やりがいはアップしましたか?

橋本:全然違います。中村さんが入らない2年と、入ってからの2年って、見えている景色が全然違ったと思っています。自分の言葉で説明できるようになると「何のために仕事してるの?」って聞かれても詰まらなくなります。「こういう理由だ」を明確に持つと、楽しいっていうか、納得して仕事ができるので、すごく良いなと思っています。
押し付けられた仕事だと「あいつが頼んだからだ」とか「割り込みがあったから」とか言い訳をする。そういう自分が嫌だし、つまんないです。そういうのが無くなった。不安になった時に自分で考えて解決できる。自分はすごいやりがいが出たと思っています。
中村さんが来なければ、浅いレベルでしか考えなかった。表面を取り繕って「考えました」っていう体で仕事をしていた可能性はゼロじゃないと思っています。

-何のためにっていうのは、どのくらいのレベルの「何のために」ですか?

橋本:ただ開発するのではなく、その状況を俯瞰して、ある意味厳しく伝えたrとか、見える化したりは自分がやんなきゃ、という感じで仕事するようになりました。それができる人は社内ではあまりいないと思ってます。それは、中村さんが教えてくれました。

中村:「あなたはそれで良いが、じゃあそれ会社としてどうなん?」とか「ユーザーに対してそれ言える?」とは結構言いましたね。開発の現場の視座ではそれでいいかもしれまない。でも「実際使っているユーザーから見たときに、その言葉やその振る舞いが本当により正しいのかどうか考えた?」と聞くと詰まる。

倉澤:具体的に「こうした方が良い」は色々教えてもらったんですが、それ自体よりは、きっかけをもらって自分で考えたこと、働く上での姿勢、サービス事業者としての姿勢、そういうのに真剣に向き合って考えるようになったのが、中村さん前後で一番変わったことだなと思います。
私自身、自分の得意不得意について真剣に考えたんですが、私以外の人たちに「こういうことやってみたらいいよー」って言ってくれたりとか「こういうことが得意だと思うからこんな事したらもっとこういうことができるようになるよ」っていうのも提案の一つやったのかなって思ってます。

-すごく育ててますね、中村さん。

中村:勝手に育ったと思いますけどね。考えるための道具とかコツは伝えますが、考えた結果、「今はやらない」ということも含め、どうするかはやっぱり自分達の選択なので。

働き方の変化

-橋本さん、倉澤さんは、ご自身でも実力ついたとか、変わったな~っていう手応えはありますか?

橋本:以前は自信がいつも無くて、中村さんや他のマネージャーに相談したこともあったんですが、そういう状況と比べたら自信を持って仕事できいます。
できてないこともいっぱいありますが、自分が何をすべきなのか、どういうことをするのかがわかっただけでも自信を持って仕事できてるなと思っています。

倉澤:私、仕事ができるやつになりましたよ(笑)。以前は発する言葉の8割5分は文句みたいな感じで、文句ばっかり言ってたんですが、だいぶ度合いが減って、文句言いつつ、何とかしたいっていうのを仕事のモチベーションにできるようになりました。言うだけで終わってたんが、やるところまで行ったんで、以前以後で考えたら、できるやつになりました(笑)。

-職場全体としてどう変わりましたか?

倉澤:雰囲気が変わったと言われますね。元がどうやったかあんまし自覚していませんが、そのぐらい自分たちのことよくわかっていなかった。個人もですが、チームとしてもどう見られているか、どういう形で存在しているチームなのか自覚が薄かった。当時を考えると、何に自信を持ってたんやろ、何を仕事としてしているつもりだったんだろうって…思います。
よく社内受注ぽいと言われていました。来た仕事をとりあえずやって、しんどそうなことは「ちょっと難しいっすね~」みたいな。そのやり取りも、企画者との温度感も合わない中でやっている感じでした。

中村:企画者はアイデアを出し、作戦を考える、開発チームはそのアイデアを実現する。手段は違っても、自社のサービスをより良くして利用者に使って欲しいという目的は同じです。同じフロアで、3メートルくらいの距離にいるのに発注と受注みたいな関係だった。開発側は「要件決めてから言うてきてくださーい」と企画に言い、企画側は「開発が無理やーって言ってるから無理です」みたいな。で、間に入るマネージャーに調整に困っていた。

-同じ方向が見れていなかった?

橋本:そうですね。今も方向は完全には一致してないですが、個人個人が「なんで仕事してるのか」を考えるようになりました。自分中心の状態から、ちょっと外が見れるようになった。まだまだ目指せる上はあるんですが、個人だけっていう視座から抜けてきたのかなって。

中村:「チームとしてサービスとしてすべき?」て聞くと「するべきです」「じゃあやり方考えましょう」という流れの話はよくしてましたね。

倉澤:全員が思ってるかは分かりませんが、昔に比べて、言い合うことが増えたこと自体、考えるようになった証かなと。以前は周りがどうだとか、自分以外がどうだとか、覚えていないぐらい無関心やったんです。でも今は「これが良いと思う」「これがアカンと思う」って表明できるようになったし、それについて自分のチームだけじゃなくて、企画の人とも話をしていこう、少しずつ一歩ずつ変えていこうとしているのが、変わったところだなぁと思っています。

-すごい進化ですよね

橋本:ビフォーアフターで考えるとすごい進化だとは思います。

現場コーチのすごいところ

倉澤:私、仕事を始めて最初に叱られたのは中村さんなんです。社内の人にも怒られたことなかったのに。「それは違うやろ、こうあるべきやろ」って。

中村:いろいろな事情があったにせよ、開発チームは「自分達のサービス」という自覚が弱かった。一方で企画側も「開発チームができないって言ったらできないんでしょ」みたいな空気だった。自分たちのビジネスなんだから、無理矢理なんとかやるくらいの気概があってもよかったのですが、良くも悪くもそこまではしない。トラブルが出ても「できるだけ早く直そうね」みたいな。それに対して「は?それは、サービス事業者としてあるべき姿じゃない」って言ったこともあったかなと。

倉澤:ショックでしたね。うちの会社はずっと「ユーザー目線を大事にする」とか「お客様のことを考えたサービスを提供する」とか「エンジニアを増やして開発力を上げていこう」とか色々言っていましたが、実際どんだけやれたか、もっとストイックに、厳しくならないといけない。「言ってるだけやったんか」って自分に対してショックでしたね。
やっぱり、言い争ったりとかすごい嫌だし、なるべく穏やかにやっていきたいと思うんです。でもお金を貰って仕事して「こういう価値を提供したい」っていうのと、私たちが穏やかに仕事をしたいっていうのは関係ないって気づいて、ちょっとずつ変わってきました。言わないとわかんないことは言わないといけない。友達じゃないのに何かを穏やかにやろうとしているのか。「何しに仕事しにきてるんやろ…」みたいな。
叱られて、中村さんのこと嫌いになったかというと、全然そんなことなくて。今出来てなくても、会社の人とかチームの人とかがやりたいと思ってることは信じれるはずやのに、実際にしてた行動は、お互いよくないと気づいているのに適当にうまいことやろうってしてたってことに気づいて、結構ずっしりと来ました。

橋本:最近改めてすごいと感じているのが、チームメンバーのどこが得意か見極めて「こういう風にしたほうがいいんじゃない」という投げかけを、中村さんは的確にやっていたんだなということです。例えば自分の同期がJenkinsというツールが得意だと言ったときに「こういう勉強会あるけどLT発表もしちゃえば?」と声をかけて、実際に発表するように促したりとか。その人がどうなりたいか考えて、動きやすいような問いかけを的確にやっていた。
自分たちは、どういう方向にいけば良いのか、中村さんにすごい的確にアシストして貰ってた。それができる人って、今も、今までもずっといなくて、自分はそれが一番影響を受けたところかなぁと思ってます。自分もアシストしなきゃって思うんですが、アクションをしてもらうまではなかなか難しくて。違和感なく、考えさせ、なおかつアクションさせて、っていうその全体的な活動自体がすごいなって思ってます。

-それはコーチとしての手腕なんですか。

中村:どうなんですかねぇ。やりたいようだから「やってみたらー?」って言うてただけですよ。人間初めてやることって、すごく大変なこととして「大きな岩」としてとらえがちで。「それ砕くとこんだけ小さな岩だから、まずこの小さな岩を片づけてみたらどうやろ?」ってやれば「あ~できたね」って。で、2個目渡して「どうやろ?」って。1個2個やれば後はもうできるじゃないですか。そんなもんかなーと。最初の1、2個は一緒にやってあげるとか、やり方を教えてあげるとかはしましたが、あとは自分らでやったんじゃないですかね。

-その人の方向性の見極めのコツとかあるんですか?

中村:「何したいのー?」って普通に聞きます。普段から喋っていたり、振る舞いを見てわかるときもあります。倉澤さんなら、場を良くすることに関心があるんだなって、普段の振る舞いとか苛立っている事とか、嬉しがってることを見たらわかるので。

-さりげなく観察?

中村:しますね。コーチとして。

橋本:今自分がその役割であるがゆえに、より「あ~凄かったんだなぁ」って。決まった方法はないのでなかなか簡単じゃないです。観察も会話しなきゃいけないですし、その会話の内容を考えて、じゃあどう伝えようって考えて、伝えて、手助けして、みたいなところまで全部やらなきゃいけない。本当に難しくて。中村さん、苦手な人にはどう伝えたらいいんでしょうか?

中村:私も苦手な人がいたので、その人に伝える時には、その人が得意な人に言ってたよ。「あの人ってこうだよねーなんかやりたいんじゃないの?」って言っといて、って(笑)。

橋本:若手は「こういう方向に行きたい」があんまり見えてないというか「こういうの好きなのー?」って聞いても、彼ら自身、決まっていない部分もあったりして、なかなか刺さらない。自分の見てる先が違うか、伝え方が違うのかで悩んでます。伝えることは全然億劫ではないし、伝えるのが難しいというより、アクションまでおこさせるって、どれだけ、どんな質問の仕方をすればそうなるんだろう「自分が動いたときってどうだったっけ?」って思い出しながらやってます。人によって違うので全部同じようにはいかないですけど。

-中村さんは前回「コーチはいなくなってからが価値なんだ」っておっしゃってたんですが、本当にそうなってるんですね。

中村:嬉しいですね。少なくとも橋本さんはうまくやろうとしてくれているので。そのリズムが残っているのは良いですね。

現場コーチが入ることで、個人としても、チームとしても、大きく成長を遂げたオズビジョン開発チーム。中村が去った後、彼らは自力でどう奮闘しているでしょうか。次回は彼らの変化について、さらにくわしく伺います。

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