バラバラだったメンバーが、気付くと本当のチームになっていた(前編)

  • #開発現場コーチング

クボタシステムズ株式会社

農業機械メーカーとして知られる株式会社クボタ様では、IoTを利用した 農業向けクラウドサービスを運用しています。
農業機械メーカーのクボタがソフトウェアサービスを作っていくにあたり、アジャイルなチームをどのように作りあげたのか、企画担当である株式会社クボタの美馬様、クボタシステムズ株式会社でプロダクトの開発チームのリーダー平岡様、開発チームのメンバー伊部様にリモートでお話をうかがいました。
(肩書きは2020年9月現在のものです)

## それぞれの課題を抱えて、トップダウンでのスタート

――現場コーチとして支援することになったきっかけはなんだったんでしょうか?

中村:平岡さんと伊部さんの上司の方から、ギルドワークスのサイトを通して「クボタシステムズのなかでアジャイル開発がやりたい」という問い合わせをいただいたのがきっかけでした。問合せをしてくださった上司は2名だったのですが、以前、自分たちがアジャイルなものづくりをしていて、すごく楽しかった経験があったそうです。今の若い人が、そういった経験をしていない、作り手として受け身になりがちな状態を憂慮して、もう一度、社内にそういった雰囲気を作りたい。でも、今の社内の流れのなかではなかなかできないから、外部の力を借りて、小さなチームでやってみたい、というのが最初の依頼でした。

――中村さんから見てチームの印象はいかがでした?

中村: 組織が大きく伝統のある企業では、それまでのやり方を変えるのが難しいですし、少し変えることができたとしても、元に戻る重力が大きく働きがちです。内心、今回もそのパターンだろう、難しいだろうな、と思っていました。ただ、相談してくださった平岡さん・伊部さんの上司2人からは情熱を感じたので、とりあえずチームを見せていただくことになりました。実際にお会いしたら、思っていたよりもみんな前向きで、チームとしては悪くない、という第一印象でした。

――現場コーチが来る前にはどんな課題を抱えていたのですか?

平岡様(以下敬称略):中村さんに相談した上司は、新しいやり方をクボタシステムズに取り入れたい、メンバーの自己組織化、ひとりひとりが自律的に考えたり動いたりできるようになってほしい、という思いがあったと聞いています。
私自身の課題としては、今までのやり方には問題があったと感じていました。ウォーターフォール型の開発をしていたのですが、システムをリリースしてから「ちょっと思っていたのと違う」ということが結構ありました。直接「発注したのと違う」と言われることはなかったんですが、クボタ側、ユーザー側のヒアリング結果もあまり芳しくないこともあって「もうちょっと良いプロダクトを作りたい」と思っていました。

美馬様(以下敬称略):プロダクトの課題としては、リリースして5年の間に、色々な機能を拡張して強化できた半面、機能が多すぎて分かりにくくなってしまった面もあり、それを解決していきたいというのがありました。
私自身の課題としては、もともと農業に関係する仕事がしたくて、希望がかなって農業向けクラウドサービスの担当という、ありがたいポジションにつかせていただいたんですが、こういうソフトウエアの開発は門外漢で、情熱はあるんだけど知識はないという状態でした。

中村:美馬さんの属している株式会社クボタと、平岡さん伊部さんの属しているクボタシステムズ株式会社は、同じグループですが、仕事上は、受注/発注の形になるんですね。なかなか協働関係になりにくい関係性があるなかで、美馬さんは「プロダクト作りに携わりたいが、どうしたらいいだろう」という課題を持っていた。

美馬:おっしゃる通りです。本を読んでアジャイルに興味はあったんですが、正直右も左もわかっていなかった。もともと、エンジニアと言っても機械のエンジニアで産業用のディーゼルエンジンの修理の仕方とかを世界中に人たちに教えていた、正直、プログラミングのプの字も知らない状態です。

中村:エンジニアリングの素養がそれほどなくても、プロダクトオーナー(以下PO)、プロダクトマネージャーとして活躍されている方はたくさんいます。ただやはり、エンジニアと会話をするためには、ある程度は知っておく方が話が早い、というのは正直あるかなと思います。

――現場コーチにはどんな期待をしていましたか?

美馬:期待をするも何も想定外でした。12月頃に集合研修の形で1日、中村さんのトレーニングを受けた時、私は参加者の立場でした。まさかその翌月にチームが発足して、自分がPOになるなんて想像すらしていませんでした。

平岡:上司から「アジャイルをやってみないか」と、いわゆるトップダウンの形で指示がありました。当時のやり方に課題を感じていたので、新しいことできるんだとワクワクしていましたね。中村さんの仕事がどういう感じかわかっていなかったので、コーチがやってくれるんだなあというくらいで。

伊部様(以下敬称略):私はチームが活動して2、3ヶ月の頃、中村さんが入った後から増員されました。アジャイルがどうか以前に、それまで農業向けクラウドサービスに関わったということもなかったですし、上司から突然言われて「仕事、何するの?」から始まりました。

中村:最初に参加したチームのスクラムイベントで伊部さんは「私はしゃべっていいのかどうかわからない」と言っていたような気がします。

伊部:複数人で団結して物事を進めた経験があまりなかったので、チームとの関わり方がわからないと言っていたかもしれません。クボタとうちのクボタシステムズとでは受発注の関係でしたが、私はそれのもっとミニマムなものというか、設計者から投げられた設計書通りに作るだけ、流れ作業みたいなことしかしていなかった。だから、とまどいというか、もう世界が違うと言うか、全然文化の違う国にいった、みたいな感じですね。

## 週1日、朝から晩まで「伴走」した

――現場コーチの第一印象はいかがでしたか?

美馬:私はエンジニアとして、いろんな人に研修をしていた側ですが、中村さんの初回の紙飛行機を飛ばす研修を受けて、すごく人の心をつかむのが上手だなと。「この人、研修めっちゃうまいな!」が第一印象でした。

平岡:今まで研修を結構受けているんですが、より現場に近い取り組み方をされるんだな、というのが第一印象でしたね。ほかの人だと会議室みたいなところでワーッとしゃべって終わりですが、そういう形じゃなかった、というのが印象に残っています。距離が近いというか、自分たちが働いている場所でコーチングを受けたりとか、話を聞いてもらえるというのは、それまではなかったですね。

中村:アジャイルやスクラムは、理屈はそんなに難しいものではなく、セミナーで話を聞くとできそうな気がするんですが、いざやってみると「具体的にどうするの?」という壁に突き当たって、そこに向き合うのはすごく難しい場面が多々あります。だからこそコーチは基本的に同席、横にいて寄り添うようにします。「伴走する」というキーワードをよく使います。

――どういう感じで伴走したのですか?

中村:毎週木曜日のスクラムイベントの日に訪問していました。デイリースクラムをして、スプリントレビューして、ふりかえりをして、プランニングをして、残りの時間にちょっと勉強というか、ワークショップしたりして、朝から晩まで1日じゅう。チームはクタクタですよね。

平岡:いやもう、めっちゃ疲れました。ひとつは中村さんからのインプットが多いというところですね。「なんかこういうことやってみたら」みたいな新しい情報が多いというのと、もう1つは中村さんからのタフなクエスチョン。「なんで、ええと思っているのにやらないの? やったらええやん?」というような問いがグサッと来るというか、確かにやれてなかった、みたいなのがあって、木曜日はそれの積み重ねで1日経つと「今日も疲れたね~」という感じでしたね。

美馬:中村さんがいつもふせんを使って、ホワイトボード前に全員参加させるじゃないですか。だから常に当事者意識でスルーできない、ずっと考え続けなきゃいけないというのと、後は最初の頃は特に、それまで自分の頭になかった観点で質問が来るので、深く考えて答えをひねり出せないといけない、今まで使ってなかった頭を使ったというか、思考回路を新しく作ってもらったなと思いますね。

伊部:はじめの1、2ヶ月ぐらいは、ただ人と一緒に1日いるだけで疲れました(笑)。でも楽しい疲れでしたね。嫌になっちゃったこともありましたが、それは私が慣れていないというか、まだ下手だから苦しいだけで、やっていることが身についたら確実に成果につながりそう、使える手法だと思っていました。

――当初は人見知り状態だった伊部さんが、チームになじめたのは、何かきっかけがあったのですか?

伊部:きっかけがあったわけではないんですが、チームでダメなところはダメと言ってもよいというか、自分が思ったことを言って変にヘソを曲げたり機嫌を損ねる人がいない、ちゃんとそこに真摯に向き合って、それに対してまた意見を言ってくれる。「ここはこういう風にした方がいい」と、隠さず直球で言ってくれる場で、私も何を言ってもいい。そんな安心感というか、自分がやったことが報われる場所なんだな、という雰囲気があった。「頑張っただけ良くなるんだったら頑張ろう」と思えました。

――心理的安全性が担保されていたから?

伊部:そうですね。

平岡:心理的安全性は大事です。私は、外からのプレッシャーがいろいろかかって、ああ無理だ、となったとき、それを自分が言えたのが印象的でした。今までそういう弱みを出すタイプじゃなかったんですが、出せるようになったのは変化だったんじゃないかと思います。心理的安全性が確保されていたから、発言に変なプレッシャーがかからないというか、自分の弱いところを見せるができた、というのが個人的に印象に残っています。

中村:平岡さんは開発チームのリーダーで、ある種のプレッシャーを感じていたようです。なので「チームは、そのときに引っ張れる人が引っ張ればいい」と言い続けました。

平岡:弱みを出せたのは、徐々に信頼が持てるようになっていったからだと思います。中村さんに対する信頼だけじゃなくて、チームメンバーみんなに対する信頼ですね。

## リモートで大切なコミュニケーション

――伴走した期間はどのくらいでしたか?

平岡:12月に初回の研修をして、1月にチーム発足、最初の3か月は中村さんが弊社に来てコーチングを受けるという形でした。

中村:4月頭の緊急事態宣言後はリモートで、6月半ばくらいまででしたね。

――リモートならではの工夫というのはありますか?

伊部:工夫というかコツですが、しゃべり終わったら終わったと言うことですね。「私はこう思いました。以上です。では次、平岡さんお願いします」というように、次の発言者を指名すると、変な間が生まれなくてサクサクと進むので、打ち合わせで使っています。以上です(笑)

美馬:同じようなことで、オンラインのときは特に相槌を大きくする、というのは心にとめています。画面だと動きが見えにくいので。

平岡:中村さんが紹介してくれたツールを活用しています。めっちゃ使いやすくて、それがないと立ち行かないぐらいの存在になっています。

中村:ツールは大事ですが「このツールではこれができないからしょうがない」となると、ツールがチームの足を引っ張ってしまうので、注意が必要です。でも、このチームはうまく使いこなしていました。

美馬:頻繁にオンラインミーティングするのも中村さんが最初に言ってくれたからですね。私はテレカンというと格式ばったイメージがあったんですが、雑談みたいな雰囲気で、ちょっと気にかかったことがあったらすぐオンラインにつないで、ささっと短時間で話して、さっさと解散、みたいな、そういうふうに気軽につなぐものだというのも発見でした。

平岡:毎日15時にみんなで集まって、オンラインで仕事の話以外の雑談をするという時間を作っています。

中村:全員参加ではなく、入りたい人だけですが、結構みんな入ってましたね。

伊部:私も、気が向いて手があいていたら、できるだけ参加していました。仕事に直結しないけれど技術の話とか、便利なツールの紹介とか、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が解除されたら、カラオケに行きたいねなんて話をしたり。その人がどんな人なのか、人として打ち解けて、より仕事をしやすくなったというのはあります。

平岡:雑談を提案したのは中村さんでしたね。「リモートでこんなことをしているチームがあるよ」と紹介してもらいました。

美馬:毎朝のGood & Newも、まあ雑談といえば雑談で、それも含めて中村さんの提案でしたね。

中村:最初3ヶ月はリアルで一緒にやっていたので、関係ができていたのですが、オンラインになったら意思疎通が難しいかなと思っていたんです。もともとみんなでワイワイするような現場ではなかったので、チームの雰囲気が前のような状態に戻らないように、コミュニケーションが活発になればいいなと考えて、いくつかチームに提案していました。

美馬:雑談については私はあまり参加しなかったんですが、リモートについては、本当にベストなタイミングで中村さんから、心構えというか、リモートの進め方を教えてもらえたので、むしろ生産性が上がっている気がします

中村:このチームはすごく真面目なんですよ。真面目にちゃんとやろうとする人達で、だから「ハンドルの遊び」というような意味での遊びがあればいいと思った。
「ミーティングのときにお菓子を食べていたら怒られるよね」みたいな話をしていたので「いやお菓子を食べた方がみんないいアイディア出るよ」みたいな話をして、お菓子を広げて話したり。雰囲気が良くなれば、後はどんどんうまくやっていくだろうな、というのはありました。

リアルでも、リモートでも、活発にコミュニケーションができるようになったチームメンバーたち。後半では引き続き、チームと個人の変化、これからの展望などについてうかがいます。

※後編はこちら

インタビュー・構成:曽田照子

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