- #開発現場コーチング
クボタシステムズ株式会社

事業会社と開発会社、メンバーとパートナー、さまざまな立場の人々からなる混成チームが、どのようにアジャイルなチームになっていったのか。前半に引き続き、企画担当である株式会社クボタの美馬様、クボタシステムズ株式会社でプロダクトの開発チームのリーダー平岡様、開発チームのメンバー伊部様にリモートでお話をうかがいました。
## 自分たちの「基地」ができて大きく変わった
――ご自身やチームとしての仕事のやり方はどのように変化しましたか?
伊部様(以下敬称略):私は入社5年目で、ただ与えられた仕事をやるだけの新人から、一人前に変わる過渡期で、どう変わっていったらいいのかよくわからないと感じていました。このチームでは、突き放すのではなく、自分でやってみて、わからないところは助けやアドバイスがいただけて、でも最終的には自分でやる。これから独り立ちしていくにあたっての姿勢として、人の助けを借りるということの有効性、みたいなことがわかりました。誰でも苦手分野やわからないところがあるんですが、そういうところは、詳しい人の意見を聞けばいい。
平岡様(以下敬称略):チームといっても、メンバーとパートナーという関係だったので、最初の頃はパートナーの方はタスクを与えられるのが当たり前になっていて、受け身の姿勢が強く残っていたんですね。
でもコーチングを受けていくと、自発的にやっていこうという意識がチームに増えたかなと思います。言われてからやるんじゃなくて「まずはちょっとやって、試してみてから考えよう」みたいな、そういう意識は結構変化した点かなと思います。
中村:最初のうちは、積極的に反対はしないけれど「やるのは大変そうですよね」みたいな会話があった。「でも、やってあかんかったら1週間でやめたらいいんちゃうの?」という話をずっとしていて、あるとき、メンバーの一人が「まずこれやってみたらいいんじゃない。だめだったらやめても良いし」と言っていた。「この人はこんなことを言うようになったんだ」と変化に驚きました。
平岡:驚きの発言でしたね。
美馬様(以下敬称略):課題をチームの課題として捉えて、チームで解決していこうという意識が醸成された、というのがかなり大きな変化かなと思います。それまでは、タスクをひとりひとりに与えて「ここまでお前の責任だ」みたいなやり方で、私のなかでもそれが正しいと思っている節がありました。誰が何をではなく、チームでやるべきことだと認識を変えられたのが、大きく変わったところですね。
POとしての私の仕事の仕方も、単に「これをやってください」じゃなくて「こういうことをしたいから、こうしようと思うけど、いいアイデアある?」とか「ユーザーはこういう使い方をすると思うので、こうしたい」とか、わかりきっていると思っても説明を入れるように心がけるように変わりました。
そうすることで開発チームがこちらの意図を汲み取り、さらに自分たちで考えて「じゃあこうしたらいいんじゃないですか」と提案してくれるようになった。しかもそれが優れていることも多々あります。提案の精度が上がっているので、POとして、それを信頼というか、あてにしているところもあります。自己組織化と心理的安全性はかなり達成できたんじゃないかなと思いますね。
中村:言葉遣いひとつとっても以前は「アサインする」と言っていたんです。「そうではなくてサインアップですよ。誰がとるか自分でサインしたらいい」とか「主語は私たち(We)ですよ」という話を何度もしていました。そこは変わりましたね。
――そういった変化を引き起こすために、具体的にどんなことを仕掛けたのですか?
中村:チームメンバーが、あちらのビル、こちらのフロアと、バラバラの場所にいたんですよ。「これはアカン」と思って「自分たちのスペースを確保してそこにみんな集まりましょう」と言ったんですよ。
美馬:自分たちの空間、みたいな。
平岡:基地ができて、そこからですよ。
美馬:印象に残ったのは、ホワイトボードの威力ですね。自分たちのブースにホワイトボードを導入して、ふせんを貼ってタスク管理を初めたのを、私たちはスクラムボードと呼んでいたんですが、1週間が経って、タスクが全部終わったときに、そのスクラムボードを見ると、すごくわかりやすいし、自分たちでできたという実感がありました。平岡さんと2人で「いいっすね~」と言い合っていましたね。
平岡:ありましたね。
美馬: こんなアナログのツールでこんな効果が、という感動がありました。すごく有効なツールだなと。

## どんどん吸収していいチームに育った
――アジャイルなやり方に変えることに対して、反対意見や反発はなかったのですか?
美馬:私はチーム内で大きな反発はなかったと思っています。
平岡:チーム内では、はじめた当初、今までと大きくやり方が変わるので「そういうのはちょっと無理」みたいなことを言っているメンバーはいました。でも実際やってみて、できるとわかってからは、ほとんどアンチな反応がなくなり、素直にみんなで学んでいこうという感じでした。
チーム外からはいくつかありましたね。アジャイルでやっていると結構ワイワイ話したりするのですが、ほかのチームは静かに仕事をしているので、私らが遊んでいるように見られたり、進みが悪いような印象を与えたりしていたようです。「本当にいけるのか?」という外からの圧力は、今もあります。私たちもあまりうまくアピールできていないというのは弱い部分だと思っています。
中村:最初に相談を受けた上司の方から「いいチームになった」という評価は聞きました。それが組織のなかに広げることができていないのは課題だね、という話があったんですが、半年やそこらでは全体に広げるのは、難しいですね。とはいうものの、こういう環境下で1つのチームのあり方が変わったのは良かったと思います。
――現場コーチが去ってからチームはどのように変化しましたか?
美馬:中村さんがいなくなって、スクラムマスターとしての平岡さんがすごく成長していると感じます。成長しているというのは偉そうですが、適切な意見も言ってくださいますし、私たちがカオスになっているときも、質問の仕方などを工夫してちゃんと導いてくれる。すごく心強く思って、頼りにしています
平岡:ありがとうございます。中村さんがいなくなったことで、アジャイルとスクラムの取り組みが終わってしまうが嫌だったので、チームだけでも続けられるように振る舞いを変える、というのは私のなかで意識しましたね。逆に言うと、中村さんがいなくなっても、チームがあまり変化をしないように、行動とか考え方が変わらないようにしよう、というのは私の方ですごい意識していました。
それまではチームリーダーというポジションで、チームの一員として積極的に引っ張っていくというのを意識してました。今は一歩引いた感じで、チームが主体的に動けるように推進していきたい。引っ張るんじゃなくてチームが自発的に動けるように、というのを意識して、極力出しゃばらないようにする感じを意識はしています
伊部:中村さんがいなくなっても、自発的に動けるというか「悩む暇があったら1回やってみて効果がなかったらやめてみればいいじゃん」という考え方はしっかり根付いて、全員が共通の理念で動けているという感じはします。
中村:いいですね。チームがすごく成長していって、毎週会うたびにどんどん吸収されていったのはすごく良かった。いろいろ苦労があったと思いますが、やってよかったなとすごい思いました。
――このチームがそんな風に吸収して成長できたのはなぜでしょうか?
中村:皆さんがうまく環境を作って割と独立的にできたこともあるんですが、すごく素直なんですよ。変に自分たちができていると思っていないし、「うちは昔からこうだから」みたいなコンテキストによる言い訳もなかった。それがすごく良かった。それから、何よりも一人一人がうまくなりたかったんだろうなという気がします。
## アジャイルというひとつの選択肢を渡す
――今後はどのような方向を目指しているのでしょうか?
伊部:私は現在は別のチームにいるんですが、いま私の所属している組織でもアジャイルっぽくものを作りあげていこうという取り組みをはじめています。今回学んだことを活かして、今後は周りを引っ張っていく、ファシリテートしていけるような存在になりたい。このチームの平岡さんのように、メンバーとしてじゃなくてリーダーとして、ほかの人がより活躍できるように見守る、活躍を後押しする、ということをしていけたら、と思っています。
平岡:中村さんが去ってとかチームの体制が変わったりしたんですが、根本としてアジャイルにやりたいというのがあるので、体制や環境が変わっても、継続して続けられるようなチームを作りたいし、それをみんなで目指せるようになりたい、というのが目標としてあります。
美馬:私は事業会社側なので文脈が少し違うかもしれないですが、農業向けクラウドサービスというプロダクトはいろんな部署が関わって、しかもトラクタや田植機といったハードも関わってくるんですね。当然それを作っている部門もあって、そこは基本的にはウォーターフォールの考え方です。
それが適している部分もあると思うんですが、ウォーターフォールとアジャイルの融合と言いますか、製造業に馴染んでいるプロセス管理にアジャイルをどう効果的に絡めていくのか、というのを模索しながらやっていくことになるかなと。
難しいテーマではありますけれど、農業向けクラウドサービスが弊社のグループの力を引き出すプロダクトになれるように、アジャイルのスピード感を活用していきたいと思っています。
――中村さん、アジャイルと製造業って相性は悪いのですか?
中村:そんなことはないと思います。昔に比べると、はるかにプロトタイプしやすくなっていますし。今までのやり方か、アジャイルなやり方か、どちらかを選択するのではなく、美馬さんのおっしゃったように、うまく融合する。これまでのプロセスの良いところを維持しながら、アジャイルのいいところをうまく取り入れていけばいいかなと、今回やったことでそういう選択肢を渡せたのであれば、すごく良かったと思っています。
現場コーチが伴走することで、一人一人が自律的な働き方を獲得して大きく成長していったチーム。今後の展開も楽しみです。
インタビュー・構成:曽田照子
こんなことでお悩みの方はお気軽にお問い合わせください。ギルドワークスのメンバーがお話をお聞きします。
- 立ちあげたい事業があるが、本当に価値があるのかどうか自分で確信が持てない
- 新規事業を立ち上げなければならなくなったが、潤沢な予算があるわけでもないのでどうしたらよいのかわからない
- 企画が実現可能かどうか開発の視点を組み入れながら仮説検証したい
- はじめてのことばかりで右も左もわからない