- #開発現場コーチング
株式会社エウレカ

恋活・婚活サービスPairsを運営している株式会社エウレカ。3年にわたり、ギルドワークスの現場コーチ中村が関わってきました。
長い期間、コーチが共感しつつ寄り添うことで、どのような変容が見られたのか。
プロダクト・日本事業責任者の金田 悠希様と、iOSエンジニアかつスクラムマスターの小林 由佳様にインタビューしました。(肩書きは2020年3月現在のものです)
## 現場コーチの果たす役割
--現場コーチは御社でどんな役割を果たしているのでしょうか?
小林様(以下敬称略):外から見た我々を教えてくれる、いわば「外からの目」をやっていただいているのが一番大きいかなと思っています。
以前は、チームのふりかえりとかも、やっているようでちゃんとできていなかったり、理解はしていても毎回似たようなことが改善ができていない、ということがあったんですが、(中村)洋さんが「先週と同じこと言ってない?」みたいな指摘をしてくれて「あっ、本当だ」と気づく。そういう初歩的なところから、自分たちでは「まあこれでいいや」となりがちなところをビシッと言ってくれる。そのおかげで気づけたことがいっぱいある。
自分たちが何気なくやってることを、言語化して噛み砕いて伝えてくれる。自分たちを見つめ直すきっかけをくれる存在です。
金田様(以下敬称略):私は2つくらい大きな役割があると捉えているんですが、そのひとつは外部メモリーみたいな役割。先ほどの小林の話と通じるんですが、僕ひとりが事業の責任者として判断しているものに、洋さんの知見や考え方が加わることによって、視点が広がるというのが大きいと思っています。何が正解かではなくて、内部の責任者としての視点以外で「あ、こういった視点があるんだな」ということを、ひとつの気づきとして得られる部分が、すごく大きな役割だと感じている。
もうひとつはスピーカーみたいな、アウトプットも切り替えられる役割があるなと思っています。例えば組織を良くしていくために伝えたいメッセージを、どちらの立場からどういう風に言うのがいいだろうか、みたいなことを話させてもらうことがあります。「これはたぶん、外部の視点として洋さんが、他の会社のケースとかも踏まえて伝えた方がいいよね」とか、逆に僕が「責任者として組織をこうしていくぞ、ってメッセージを発信する方がいいよね」など2人で話しながら、同じことを目指しながら、言う視点や言い方、だれが言うかを切り分けているんですね。どっちがどう言うか、切り替えることで、組織をどうしていくかのコミュニケーションをより効果的にできていると感じます。

中村:金田さんのおっしゃったひとつ目の役割は、組織の責任者が壁打ちをする際の壁ですね。金田さんが考えてることを聞いて「それってこういうことですか」とか「こういう言葉だと、もしかしたら誤解されるかもしれませんね」とか「こう伝わると思いますよ」というのを、壁打ちみたいな形で返して、他の事例を伝えたりしてブラッシュアップしていただくことが割と多いです。
ふたつ目のスピーカというのは、その通りで、私としても助かっています。私も良い現場になって欲しい。でもコーチだけでは限界があるんですよね。改善の取り組みでうまくいかないパターンって、チームはやる気があっても、チームの外側である組織からの支援やコミットがないと、すぐ限界が来てしまいます。でもエウレカさんは金田さんを中心に「じゃあ俺たちもこういう組織になるから一緒やろうぜ」みたいな雰囲気があるので「どっちから言った方がいいですかね」と相談して切り替えるのがやりやすいし、いいなと思ってます。
--客観的な立場からの発言ということで、外側の人も聞く耳をもってくれる効果も?
小林:結構あると思います。中にいる私が言っても流されちゃうことも、洋さんが言うと「おっ」となったこともありましたね。まあ、それは洋さんが常日頃から色んなインプットというか、新しい知見をもって来てくれるからこそ、みんな信頼している、というのはむちゃくちゃ感じます。
--現場コーチとして中村さんがいて良かったと感じた具体的な場面はありますか?
金田:多数ありますが、具体的な場面というと難しいな……。
中村:3年くらい一緒に仕事をしていますから。金田さんと。
金田:3年、長いですね。ふりかえると色々ありました。なかでもすごく印象的で、個人的にチャレンジだったのは、アジャイル開発のなかで、スクラムという小チーム分離型のフレームワークから、一気にひとつのチームにして全体でカンバン方式に切り替えたことでした。洋さんも「この形はあまり私も経験がないです」と言いながら、割と楽しんでいた。外部のコーチの方でも初めての経験なんだということが分かって、僕も安心した。
中村:1年半ほど経ったころ、次年度の組織の話をしていて、金田さん達から何回か「こう変えたいと考えている」と事前に相談されたのですが、そのたびに「まだ早いと思います」とお返事をしていた。でも「どうして変えたい」とおっしゃっていたので、それまでの経験の蓄積という財産もあるし、最悪でも元のフォーメーションに戻せばうまくいくことは分かっていたので「2、3ヶ月、全力でやってみて、うまくいかなかったら戻しましょうよ」という形でチャレンジしました。
金田:そうですね。僕もそれを聞いて、成功するか失敗するか分からないし、とりあえずやってみて、組織として学習できればいいなと切り変わったのは、今ふりかえると大きな転換でした。
中村:うまくいくかいかないかはともかく、学びながらやればいいということはすごく伝えましたし、エウレカの皆さんは理解していただいたと思ってます。
金田:結果的に今はまた小規模チームに戻ってはいるんですが、一回全体をひとつにしてカンバンをやったことによって、全体観というか、組織全体を見ようとする人が増えました。
中村:だいぶ違いましたか?
金田:だいぶ違います。全体を意識しながら各チームが動いているという感覚が以前より増したので、もしまた全体をひとつに戻したとしても、いい形でやれるんじゃないか、という気がします。組織ってひとつの形にとどまり続けることはたぶんなくて、常に違うものに変わり続ける、一方向だけでなく、行ったり戻ったりということもあるんだなと強く感じました。いったり戻ったりしながら、お互いの良いところを取り入れてくってこともあるんだ、と。僕もやってみて勉強になりました。
--小林さんから見て、中村さんがいて良かったと思うことは?
小林:そうですね。洋さんは私たちが「こういうときどうしたらいいだろう?」と悩んだときに、色んな現場からの知見を共有してくれるんですが、そのたびに「でも現場によって事業の状態も違うし、人も違うから、プロセス改善って再現性はないよ」と何度も伝えてくれました。それが私には励みになっています。
答えはなかなか見つからないし、教科書通りにやっても、よその現場を真似しても、必ずうまくいくわけじゃないので、いつも悩むんですが、そんなときに「再現性もなくて大変なことだけど、協力するから一緒に頑張ろう」というメッセージングをしてくれるのが、私はすごく嬉しいというか、心強いです。
中村:ええ話ですね(笑)
小林:組織ややり方を俯瞰して見てくれるときもあれば、そういう風に現場にいる私や他のメンバーなどの個人に、がっと寄り添ってくれるときもあって、遠い、高い目で見たり、近くの目で見たり、というのを切り替えながら併走してくれるのがすごく心強いなって思っています。やり方だけじゃなくて、組織のなかで葛藤する苦労みたいなものを共有してくれるし、共感してくれる、というのが、エウレカとその前の会社も含めた自分のキャリアのなかで、新鮮な、関わり方だったので、すごい印象的ですね。
中村:ギルドワークスを立ち上げる前、私自身が社内で改善とかアジャイルの取り組みをやってきた側だったので、小林さんの気持ちがよく分かります。幸い当時の上司たちは理解があったんですが、ときにはそんな上司が異動されたり、こっちが異動したりして、そうじゃない状態になったこともあったわけですよ。やっぱりそういうときって、孤独になりがちです。でも、そんな時にSNSや勉強会、カンファレンスなどで同じような経験をして乗り越えてきたアジャイルの先達のみなさんと出会って、すごく助けられたという経験があります。
経営側のことももちろん分かるし、現場の気持ちもすごいよく分かる。コンサルとして経営の右腕としてやっても、現場の声は入ってこないし、聞いてくれないので、おっしゃるように共有や共感はすごい意識していたかもしれません。中の方が折れてしまうと、コーチがいなくなったあとにすぐ戻ってしまうので。
## 組織自体をプロダクトと捉える

中村:この現場に来て3年。私の今までの現場コーチとしてのキャリアのなかでも、最も長く関わっている現場の1つです。毎年のように金田さんと「もうそろそろいいですかね?」と話をするんですが、そうすると「いやちょっと次組織をこう変えるから、もうちょっと付き合って」「またですか? でも面白そうだからやりましょう」みたいな関わりがずっと続いています。
エウレカさんは私自身にとっても学びのチャレンジで、さっき金田さんのお話にあったように「え?それをやるんですか?それセオリーから見たらヤバそうだけど、でもポテンシャル高いし、まあいけるでしょう、楽しんでみようか」というシーンが何回かあって、そうするとこっちも一生懸命になって色んなインプットやどういう風な視座で話をしたらいいか、とか一緒に考えながらやっていて、それが面白いので、なんだかんだで続いていますね。
--組織変更はよくあるのですか?
金田:多いと思います。かなり変えてますし、実際チームというか関わる人も増えてるんで、組織構造だけじゃなく組織運営をどうしていこうかとか、ひんぱんに変わっています。そういった意味では、会社の組織制度をひとつのプロダクトみたいに捉えているところはあります。作っているプロダクト自体を良くするのも大事だし、組織をプロダクトと捉えてどう良くしていくか、ということが同時にプロダクト本体にめちゃくちゃ影響を与えると思っているので、そこをどうやったら良い方に変えていけるか、もっともっと回していかないといけない。
--組織を動かすって勇気がいりますよね。
中村:どちらかというと、普段は見えない全体感のなかで、それほど思いのない組織変更をされて困ったりとか、あるいは現場側から「今の体制ではこういう限界があるから、変えてみてはどうですかね?」といって組織変更に取り組むケースが多いなかで、エウレカさんは金田さんを中心に「こういう意図があって、こういう世界の実現のために、こんなプロダクトの姿にしたい、そのためにこういう形の組織にしたいだけど、どうだろう?」みたいな相談をしてくれるので、こっちも意義を感じるし面白さを感じています。
金田:この3年で、恐怖心みたいなものは少しずつ”出来るな”という自信に変わっていきました。。以前は、例えば「メンバーが適応できるのか」「なんか反発があるんじゃないか」「みんなが納得してくれないんじゃないか」という不安がありましたね。今もその不安が全くないわけじゃないですが、どちらかというと僕が「組織の運営はこうしよう」と考えるより、小林のように現場を実際に動かしているメンバーが自発的にいろいろ施策を打ってくれている状態です。
今は僕は「組織をこうしたら」なんてことは、ほとんど言わないですね。小林を中心にすごくうまくみんなで良くしていってくれている感じです。僕自身は「なぜ今これをやっているのか」に集中すれば、それに合わせて良い組織を作る、というふうに、ちょっとずつ変わってきています。
--「えっ? また変わるの?」みたいな混乱や反発は?
小林:混乱や反発は、そんなにはないかなという気がします。最近の変更も、もともと洋さんの影響とかで、みんなそれぞれチームでの動き方が変わってきて、小さい単位で学びが溜まってきたから「じゃあそれをみんなで共有して、改めて全体として変わったら、もっと良くなるんじゃないか」みたいな感じでした。唐突というよりは現場が変化していって、必然的に組織全体に変化が訪れるというふうになってきています。
--現場の方からボトムアップ的な感じで出てくるのですか?
金田:そういうものも増えている感じはありますし、現場の変化を見て「大きな組織変更してもまあ大丈夫だろうな」と感じる機会がすごく増えてきました。明確に「組織をこういうふうに変える」と事前にコミュニケーションすることもしないこともあるんですが、いずれにしても変化を許容できるチームに変わっているなと思います。
中村:わりとみんな共通認識が早くなりましたよね。「えっ? 今どうなってるの?」という感覚よりも「まあそりゃそう変わった方がいいよね」「じゃそうやっていくか」みたいな共通認識がすごい早い。さっき金田さんが「恐れることがなくなった」とおっしゃっていたのが印象的だなと思います。
3年前は何かひとつ変えるにしても「ちょっとやってみよう」の他にも「いや、こうなったらどうするの」という声もそれなりにあった。それが「1週間やってみたてダメだったら戻せばいいやん」と気軽にできるようになって、どんどん前に進むようになった。私自身はそれが当たり前だったので、当たり前に口をついてでているのですが、そういうことが皆さんにとっての変化になってるんだな、というのを改めて思いました。
小林:私は1年半前くらいに転職して入社しているので、その組織変更には直面していないのですが、入社のタイミングでアジャイルの考え方だったり、変化に強い組織の会社がいいと思っていました。現場でどんどん改善のサイクルが回ってるというのは、入社を希望するときに決め手になったポイントだったりします。
--変えることに抵抗感がある方は、もういらっしゃらないんですか?
金田:ネガティブではないなという解釈ですね。
小林:慣れるのに時間が掛かったりとか、新しいことをするからチームとしてうまくこなすまでに時間が掛かったりとかはありますが、変わること自体に最初からNOという人はいない、というのはすごく感じます。
変化を積み重ねることで、自分たちで変わることが当たり前になって来た個人、チーム、組織。
後編では、そんなみなさんと現場コーチとの今後の話を伺いました。
後編に続きます。
聞き手・編集:曽田照子
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- 立ちあげたい事業があるが、本当に価値があるのかどうか自分で確信が持てない
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- 企画が実現可能かどうか開発の視点を組み入れながら仮説検証したい
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