- #開発現場コーチング
三菱重工業株式会社

三菱重工様がアジャイルで開発を始めるにあたり、「自分たちはどう変わればいいのか、見て欲しい」と選んだのがギルドワークスでした。前編にひきつづき、後編では現場コーチがもたらした変化についてうかがいました。
※肩書きは2021年6月現在のものです。
## プル型コミュニケーションがもたらしたもの
――現場コーチが入ったことで、どんな変化がもたらされたんでしょうか?
タケチー:私はシステム開発とかITの技術的なことがわからないので、最初はディスカッションでもあまり意見を言わないようにしていました。「知らないくせに、何言ってんだこいつ」と思われちゃうと思って。でも洋さんから意見を言うことの重要性を学んで、的外れかもしれないんですが、自分自身の意見をちゃんと言うようになったと思っています。
中村:「わからないというのも立派な表明だと思うんですよね」とタケチさんにも言ったし、「わからないからちょっと教えて」と言うことも大切です。チームや開発者が「POはどうせわかんないから、言わないでいいや」となると、いつまでたってもわかり合えません。わかり合おうとする、わかるように説明しようとするのも仕事のうち、という話もしたと思います。
モンゴル:チーム内ではコミュニケーションがみんなうまくなった。タケチさんも、意見を表明するだけじゃなくて、周りから引き出そうとしている。洋さんは「プル型コミュニケーション」と呼んでいますが、だれもが全部が全部をパブリックにしているわけではないので、こちらから積極的に聞いていこう、というのを広めてくれた。特にコロナになってから、隙間時間でお互いに話すことが非常に少なくなった状況で、プル型を意識して、みんなどんどん言っていこう、どんどん聞いていこう、というのは刺さりました。
また、みんな「ユーザーにとって使いやすいものを作ろう」と思っていたものの、行動としてそれが実践できていなかった。そこに洋さんが「アウトカム思考」というか、ただ作るだけじゃなくて「それがユーザーにとって使いやすいかどうか、という視点で、ちゃんとみんなで話し合おう」という雰囲気を盛り上げてくれた。
具体的には「これってどういうユーザーが使うの?」とか「どういうケースで使うの?」とか「これはこういう選択肢はなかったのかな?」とか、ユーザー目線で問いかけてくれたことで、みんなが、こういうふうに考えないといけないんだ、と気づかされて、改善していきました。
中村:確かに、アウトカムの話とか、「ユーザーのことを知らないまま作ってもしょうがないですよね」みたいな話とか、「ユーザーインタビューしましょうよ」とか、「ユーザーストーリーマッピング作って何がぼんやりしてるか明らかにしましょう」など言いましたね。
## 現地に行って関係性が変わった
中村:みなさんで事業部の工場に行ったこともありましたよね。
モンゴル:現場を見に行ったのも洋さんの影響かなと思ってます。私達は今、部品発注のシステムを作ってるんですが、やっぱりユーザーというかユーザーに近いステークホルダーの声を聞こうということで、洋さん以外の全員、パートナーの方も含めたチーム全員で広島の工場へ行きました。こういうご時世なんで、個別で行動しながら、途中で一緒に夕食を食べたりという感じで行きましたね。現地で部品発注が実際にどういう流れで進んでいるか、こういうふうに発送作業されてるんだなとか、受注が受けたらこんなふうに流れていくのかというのを見て、実感しました。
中村:この現場のすごいところは、パートナーとかプロパーとか関係なく、チームで動くけるところです。チームのみんなで行って、現地でみんながわいわい話を聞いたことで、事業部の方との距離もぐっと縮まったし、チームの中でもコミュニケーションの解像度が揃った、という感覚はありましたね。
モンゴル:メンバーはそれぞれ異なるバックグラウンドを持っているので、いい意味で人によって意見が違う。それで「この人が行けばとりあえずいいや」とならなくて「みんなで行かないとわからないよね」みたいな雰囲気になったと思ってます。
ミッチー:私はこのチームにステークホルダーとして参加しているので、はたから見た感じになりますが、洋さんに入ってもらって、ガラッと変わりましたね。
以前はチームの会話は「開発するためにはこうしなきゃいけない」とか開発者視点が多かったんですが、ガラッと変わって「お客さんは、これをどう使いたいんだろう」みたいな、ユーザー視点の会話になりました。それがまず大きな変化だと感じています。
それから、チームという意識が非常に高まっている。チームで学び合うだとか、チームで情報を共有し合うという、その密度がどんどん濃くなっています。従来、弊社は、パートナーさんにはある程度しか情報を渡さないなど、どこかで線引をすることが多かったんですが、今回は情報を共有している。そのことが良い開発に繋がっています。
また、事業部とのコミュニケーションの量や質が、どんどん濃くなって、関係性もどんどん良くなって「一緒にやっていきましょう」というスタイルに変わってきている。これらはやはり、洋さんのさまざまなアドバイスで我々が変わってきているからだろうと思います。
## 事業部がスプリントレビューに参加
――コミュニケーションが変わったことで、事業部からどんな反応がありましたか?
ミッチー:プロジェクトが始まった当初は「あいつらが何をやってるのか、よく見えんな」というのがあったと思うんですよね。それが今は「あいつら今あれやってるな、次は何を出してくるんだろう」と、期待を抱いてもらえるような形になってきています。
中村:今はスプリントレビューというスクラムのイベントに事業部の方に参加してもらって、新機能を触ってもらってますからね。ほとんど説明なしに、想定通りの動きをしてもらえるのか、止まらないのか、みたいなところを見て、みんなでディスカッションする場になっている。とてもいいですね。
モンゴル:リリース後のシステムを実際に使うのは、三菱重工の取引先の方ですが、ユーザー部門の方がお客様になりきって、私達が与えたお題というかシナリオをやってもらうというロールプレイ形式でやっています。
ミッチー:洋さんのアドバイスをうけて、タケチさん中心に、モンゴルさんと連携しながら、事業部とグイグイやっている。非常に素晴らしいと思ってます。
タケチー:洋さんからは「スプリントレビューに出席してもらうだけでも、革命的に変わるよ」と、ステークホルダーを巻き込むことの重要性や巻き込み方を教えてもらっていました。現在は実際に触ってもらって、フィードバックを毎週もらう形で進めています。以前は壁があって「ステークホルダー対開発チーム」だったのが、この「対」の部分がなくなりつつある。一気に改善されたと実感しています。
モンゴル:最初の頃はユーザー部門対私達みたいな感じになっていました。ユーザー部門から見ると、何をやってるかわからないし、機能が足りないし、スケジュールが遅い。私達はこういう機能をつけてくれと言われても、そうなれば遅延するし、無理だよって、互いに、不信感があった。
信頼関係は築けていなかったんですが、スプリントレビューに参加してもらうことで、「これユーザーさんはどう使うんだろうね」という話ができるようになってきた。
ユーザー部門の人たちから「ユーザーさんに実際に使ってもらって開発したいよね」「こういうデータをそろえなきゃいけないね」みたいなことを言ってもらえて、機能をどんどん足すよりも、どういう機能が必要なのか、みたいな、あるべき姿を互いに語れるようになってきた。非常に良くなってきてるなと思います。
中村:印象的だったのが、「私」対「あなた」から「問題」対「私達」となっていることですね。先週のスプリントレビューでは「自分たちもあまりお客様がわかってないな」みたいな話になって、事業部も、実際の利用者の人たちのことをそれほどわかっているわけじゃない、ということを、モンゴルさんやタケチさんとの会話の中で、事業部の方が発見できた。
モンゴル:そうですね。実際のエンドユーザーがどういうふうに使うかを私達は気にしていて、ユーザー部門の方たちに、もっとユーザー視点を持ってほしい、という思いはあったものの、それを伝えるのも実践してもらうのもかなり難しかったんですが、スプリントレビューに参加してもらうことで、自発的に「わかっていないところがあるな、もっと知らないといけないし、もっと使う人に聞かないといけない」と思ってもらえたのは、それに一歩近づけた。非常にいいことだなと思ってます。
中村:すごいことだなと思います。
## リモートの不安と不便を「モブ部屋」で解消
ミッチー:見ていると、本当に2人とも、毎日の活動が楽しそうですよね。
タケチー:楽しいですね。開発チームとPOの間には、ある程度の壁があるとものだろうと思うのですが、今のECチームはそれもほとんどなくて、いつも開発チームにPOの困りごとを聞いてもらって、サポートしてもらったり、逆に開発チームが何か困っていれば私がちょっとサポートしたり、チームでの仕事が楽しくなってきたと感じています。
中村:このチームは基本的にみんなリモートワークですが「モブ部屋」と呼んでいるんですが、Google Meetにみんな常時接続してるんですよ。最初はモブプログラミングのためだったんですが、今はとにかくそこに、しゃべらなくても普通にみんな集まっていて、まるで丸テーブルで仕事してるような、だれかボソッと言うと誰かがそれを拾い上げるみたいな文化がこのチームができていて、とてもいいですよね。
モンゴル:最初に洋さんから「常時接続したら?」という提案があった時にはあまり集まらなかったんですが、モブプロ(モブプログラミング)のあと、みんながそのままその部屋にいたことから自然発生的に始まって、「なんかこれ、心地良くない?」「タケチさんとかがいたら、もっと良くなるんじゃないか」など、自分たちで改善して、定着していました。
中村:朝会が終わって他のミーティングがなかったら、みんながそこに入って作業する、という感じのリズムが出来ているみたいですね。とてもいい文化だなと思います。
モンゴル:自分たちで何か心地いいスポットを見つけたみたいな感じでしたね。開発チームだけでモブプロをやっていても解決しない問題もあるので、タケチさんやデザイナーたちとうまくコラボして、「この画面の部分どうしたらいいですかね」とか、相談しながら進めるとやりやすいし、デザイナーからは「これ実装しやすいですか?」みたいなことを開発に確認しつつやれるので、不安感がかなり抑えられた状態で仕事を進められています。
ミッチー:それがめちゃくちゃいい、ということで、他チームがマネしはじめています、今、他のチーム用のとあわせて、3つのモブ部屋があって、みんなそれぞれ自分のチームの中のモブ部屋にこもって仕事をしている感じです。いい文化が浸透しつつありますよね。
中村:なんかすごいですね。モブ部屋同士で、勝手に人が行ったり来たりできるとまた面白いですね。まさに「知の移転」が始まります。
ミッチー:そういうのができてきたら、本当にいいですね。
モンゴル:コロナの時期で、それぞれ在宅しているから、コミュニケーションを取るときは、わざわざSlackでメンションして、みたいなことが常だったなか、このやり方はすごくはまったと思ってます。
中村:常時接続しているから「ちょっといいですか」と言わなくていいのが楽ですね。
## 社内で「知の移転」がはじまっている
――「今後こうしたい」ということをお聞かせください。
タケチー:今後の期待としては、洋さんがいなくてもチームだけでしっかり回せるようになりたい。最初の1.~2ヶ月は洋さんがいないと、スクラムを形式的にやってるだけでグダグダだったんですが、2月か、3月ぐらいから、洋さんがいない日は「いや、洋さんだったらこう言うね」みたいな感じで、お互いに声を掛け合っていましたね。
モンゴル:「イマジナリー洋さん」ですね(笑)
タケチー:そう。「イマジナリー洋さん」で、お互い厳しく行こうみたいな形で。そうすることで、ただ回すだけじゃなく、スクラムの本質の部分を理解しながらやれるようになってきた、と感じています。
個人的には、最近、多少はPOっぽくなってきたかなと思っているんですが、一人前のPOになるために、ちゃんとコーチングしていただきたいとすごく思っています。
中村:タケチさんはとても頼もしくなっていますよ。何度か「仕事を減らす、やらないことを決めるのがPOの一番難しいところですよね」みたいな話をしたんですが、今はご自分から「これは後でいいですよね」という風に、意志決定している。とても頼もしいと思います。
ミッチー:すばらしいですね。
――モンゴルさん、ミッチーさんは、どうですか?
モンゴル:リリース後、お客さんからフィードバックを得るようになってからがむしろ本番だと思っています。お客さんによりフィットしたプロダクトにどうしていくか、アウトカム思考になっているかが試されるステージに来る。そこで新たな課題を、最初は洋さんのサポートも受けつつ、よりうまく回せるようにしていきたい。ゆくゆくは洋さんがいなくても回せるようになったらいいなと思っています。
ミッチー:僕の場合はステークホルダーとして、いくつか段階的に今後こうなっていきたいという期待があります。
まず、タケチさんとモンゴルさんのいるECチームが、スクラムチームとしてより強固になって、洋さんから「もうお前ら大丈夫やで」と言ってもらえるぐらいにしたい。
それから、今、グループ内で他のスクラムチームも産声を上げているんですよ。今後出てくるチームが、先行しているこのチームのよき例を真似ながら、どんどん育っていくという「型」みたいなものを洋さんとともに作っていけたら、知の移転とか、学びの移転とかできるだろうと思ってます。
最終的には僕らがそういうことを進めた暁に、我々としてのアジャイル開発って何だろうという、僕たちはこれを目指すんだというゴールを作っていきたい。
洋さんには、まだまだご支援いただかなきゃいけない、と強く思ってるところです。
モンゴル:洋さんと他のIoTチームのスクラムマスターと私の3人で話すという活動もやっていて、それも非常にいい学びになったなと思います。作っているものは全然違うんですが、そこのスクラムマスターと課題を共有すると同じような組織体系の中でやっているので同じような悩みがあって、「あっちはどういうやり方でやってるんだろう」って、情報共有しながら、3人で話し合っていけるというのは、知の移転の一環としても、非常に良かったと思いました。
タケチー:そうですね。スプリントレビューのやり方とか、プランニングのやり方とか、いいところを真似て、変わりましたね。
モンゴル:何も言われなければ、各々のチームで独立してやっていたと思うんですが、洋さんが「あそこのチームのああいうところ見てみるといいよ」と、橋渡しになってくれている。
中村:私は旅人というメタファーをよく使っています。旅人役の人が、いろんなところをフラフラして「あそこの町ではこんなことしてるよ」とかいうのが他の町に伝播することで広がっていくようなメタファーですね。最初はコーチが旅人役をやればいいんですが、それがどんどん皆さんが現場の場数を踏んでくるとまたぐっと変わってくると思ってます。
――同じグループで複数のチームが発生することで、知の移転がしやすいというメリットがあるんですね。
中村:同時にいくつものチームを立ち上げるのではなく、1つのチームを立ち上げて、その周辺に2つ目を立ち上げ、チーム同士がお互い学び合えるようしているところが、成功していると思います。
先に進んでるチームは、初学のチームに伝えることで学び、初学のチームは先を走るチームの知見をうまく使ってショートカットしつつ、自分なりにやり方を見つける。先のチームがその初学のチームの実験を見て、また新たに学ぶ、という形になっている。焦りすぎない範囲で、早く次、その次とチームが立ち上がっていくと、さらにとても良い組織になるだろうと思っています。
そうなったときに、タケチさんやモンゴルさんが経験を伝えるために、近隣のチームと交流に行く、などとなってくると、知の移転として、とてもいい形だと思います。
ミッチー:そうなると素晴らしいですね。そういうところを本当にやっていきたいです。
コミュニケーションの変化が、自分たちのチームを変え、周囲を変え、新たなチームとの相乗効果も生み出しました。今後はますます活発に「知の移転」を含めた交流がなされていくことでしょう。
インタビュー・構成:曽田照子
こんなことでお悩みの方はお気軽にお問い合わせください。ギルドワークスのメンバーがお話をお聞きします。
- 立ちあげたい事業があるが、本当に価値があるのかどうか自分で確信が持てない
- 新規事業を立ち上げなければならなくなったが、潤沢な予算があるわけでもないのでどうしたらよいのかわからない
- 企画が実現可能かどうか開発の視点を組み入れながら仮説検証したい
- はじめてのことばかりで右も左もわからない