- #価値探索
株式会社エラベルワーク

## お客様インタビュー:株式会社エラベルワーク 下之段様(前半)
仮説検証の期間2年!7度にも及ぶ事業の仮説検証を繰り返してきた、株式会社エラベルワーク統括責任者の下之段様。ギルドワークスと共に歩んだその不屈の仮説検証はどこからはじまり、どんな未来を開こうとしているのか、自ら七転び八起と称される、お話をうかがいました。
(肩書き、状況などは2017年8月当時のものです)
「転」第1仮説 ピンタレスト風のポートフォリオサイト
(2015年4~12月)
市谷:下之段さんはオフィスのデザインや移転を手がける創業50年の老舗、MACオフィス経営企画部部長であると同時に株式会社エラベルワーク統括責任者でもあります。
まずタイムラインを思い起こしてみたいんですが…最初のアイディアは2015年…

下之段様(以下敬称略):最初のアイディアは2015年4月、「条件を入力したらAIがデザインを選ぶ」というサービスを作りたいと思いました。ピンタレストのようなUIで。そのサービスで使用するデザインを集めるために、まずはデザイナーがポートフォリオをアップロードできるサイトを作ろう、という発想でした。
上野:最初に会った時に新しい事業を展開するために別会社(=株式会社エラベルワーク)を立てる、という話をMACオフィス代表の池野さんから聞いた覚えがあります。
市谷:新しい会社となる「エラベルワーク」を設立した時期はいつ頃でしたか?
下之段:2015年7月です。池野と僕で別会社を作ったのは「関係者や既存事業に気を使わずに自由にやりたい」というのと、「オフィス事業にシナジーを生み出すような新しいことをやらなきゃいけない」と思っていたのがきっかけでした。普通であれば「ビジネスモデルが先にあって法人を作って事業化していこう」なのですが、僕らの場合は先に箱(会社)をつくりました。
アイディアを実現するためにどこに作ってもらうか、候補をギルドワークスさんと他社さんで検討しました。
いったんリソースの関係から、他社さんと一緒にやると決めて始めたのですが、2015年の12月完成までたどり着かず、ダメになった。その時点で2ヶ月ローンチが遅れていました。それで12月に「今こういう状況で立て直しを考えてるんですけど、第2フェーズから御社でお願いできますか?」とギルドワークスさんに相談しました。
市谷:ご連絡頂いて、最初のオンラインミーティングのことはよく覚えていますね。積み残しの機能一覧を眺めながら、どういう状況なのかをお聞きした。
上野:他社さんにサイトオープンまでは担当していただいたんですよね。
下之段:そうですね。ただ、この時点ではまったく仮説検証はやっていなかったんですよね。新しいサービスとか新規事業とか、責任者として立ち上げてきた経験がなかったんです。
前職では、売るものが用意されて販売していく。そういうのはやったことあるんですが、ゼロからイチに何か事業を生み出す、というのは今までやったことがなく、やり方が全く分からない。
だからって、やり方を調べようとも思わなかったんですね。ぱっとアイディアが生まれて、インターネットで調べて、似たようなサービスがあったとしても、似てるけどちょっと違うって自分たちの中でこじつけて前に進めてしまおう。そんな考えでした。
市谷:仮説検証のやり方が経験としてない、ということでまさに私たちの出番になるわけですが、最初からすんなりと始められたわけではなかったですよね。実は、最初のミーティングで機能一覧を見ながら「さて、ここからどうやって仮説検証に持っていくか…」ということを考えていました。
<市谷による補足>
いきなり機能一覧を頂いて「さあ開発をお願いします」というシチュエーションは珍しいことではないですね。たいていの場合「なぜその機能が必要なのか」まで明らかになっていません。必要なのは機能ではなくて、問題解決である、ということまで立ち戻ることが求められます。どういう人達のどんな問題をどう解決するのか、という観点で仮説を立て、検証を行う。その結果でもって機能の方向性を定める、というのが一つの流れです。
「転」第2仮説 幻のクラウドソーシング
(2015年12月~2016年2月)
上野:第2のアイディアは最初のアイディアで集めたデザイナーに仕事を紹介したい。人材紹介につなげたい、という話でした。
下之段:クラウドソーシングのような感じでしたね。もともと代表の池野が「人材にかかわることをやりたい」と言っていて、クリエイターのためになるクラウドソーシングという発想でした。
市谷:「やるかやらないかの前に、まず検証しましょう」という話をして、まずもって最初の検証として、顧客候補にインタビューに行ってもらったんですよね。「本当にこれから作ろうとしているサービスが想定している人たちに必要とされるのか?」という議論をしましたよね。
下之段:そうでした。そもそもこの企画で勝負できるのだろうか?と思って20数人、僕がヒアリングに行きました。結果、明確なニーズがなさそうで、やめようっていう判断をしました。
-ここでインタビューするまで仮説検証の必要性は感じていなかったのですか?
下之段:最初に組んだパートナーは、開発としてどのくらいでやれるか、ということには答えてくれましたが、それがビジネスとして成立しそうかしないかについての、助言はありませんでした。それが間違っているというわけではありません。当初は僕らは「こういう風にやりたいんですよ」って言ったら「いいですね、やりましょう!」って言ってくれた方が気持ちが良かったんですよね(笑)。だから、検証もなく開発を始めていたんです。
-そういうやり方ですすめている現場を見たときに、ギルドワークスはどう思いました?
市谷:我々は仮説検証を生業としていますので、検証することを強くお奨めしたかった。しかし、一方的に押し付けていっても、ダメだろうと思っていました。このアイディアを成し遂げたいという強い思いがあるところに「そんなやり方ではダメですよ」とただ言ったところで受け入れがたいだろう、と。納得してやらないと、前には進めなくなるだろう、と考えていました。一回目のアイディアの時に、仮説検証の提案をして受け入れられなかったので、以降は、どう進めるかについての合意形成を慎重にやりましたね。
下之段:昨日、過去に市谷さんからいただいた最初の提案書を読み返していたのですが、後でまたお願いしたときにいただいた提案と、あんまり変わらないんですよ。
市谷:変える必要がないですからね(笑)
下之段:多分それが基本のプロセスだからだと思うんですよね。でも当時は「えっ!?世の中に送り出すまでにするまでにこんな遠回りしなければいけないの?」って思っていた。だってもう頭の中に構想はあるので、それを世の中にぱっと出したいんですよね。でもその前に検証して、ヒアリングもして…「いらないいらない!だっていいアイデアだもん!」って。僕はずっと営業マンだったので「形さえあれば何でも売れるぜ!」という気持ちもあったかもしれません。
上野:まして、もう会社作ってますから。事業として動きに出さないと、会社として…
下之段:そう。早く売り上げなきゃいけないっていう焦りもあった。4月ぐらいから最初のアイディアが動き出して、9月ぐらいにはオープンさせて、事業計画書も代表と作って、事業目標の達成はもう必達で!って、僕もコミットしていたので、それより先に延ばすことは許されなかったんですよね。
市谷:事業を立ち上げる前に、組織をかっちり作ってしまい、本来背負うべきではないことまで背負うことになり、結果どこへも進めなくなってしまうことを、クリフハンガー(断崖絶壁)と呼んでいます。組織づくりのタイミングは、死活に関わりますね。
-仮説検証を実際やってみての困難は?
下之段:いままでの事業のお客さまとは異なる方々が相手となるので、会話すること自体に難しさを感じましたね。あと、インタビューするのも飽きてくるんだなと(笑)。同じことを何回も聞くので、同じトーンでは聞けなくなっちゃいますよね。
苦労したところで言うと、やっぱりどこか「もう、こうなんでしょ」っていう自分の中での決めが出来てきて、見方にバイアスがかかってしまうところですね。
例えば、20人インタビューする場合、最初の3人はフラットな気持ちでできるんですが、どこかの質問項目で同じことを言われると、4社目には「たとえばこういうことじゃないですか?」って先にこっちから言っちゃう。お客さんは確かに「これ悩んでます」っていうんですが、実はそれ僕が誘導していたりするところもある。解釈を押し付けている可能性があるんですよね。
-飽きたり、バイアスかかったりとか、仮説検証の現場ではありがちなんですか?
市谷:「自分がバイアスにかかっているだろう」ということは常に認識していなければなりませんね。解釈をするために、インタビューをしているわけですが、解釈を一方的に押し付けるのは「検証」ではなくて「説得」になってしまいますね。
-仮説検証を繰り返す中で、ギルドワークスがいてよかった、というのはどんなところですか?
下之段:自分にはない発想とか、整理の仕方。仮説はこういう風に立ててくださいとか、ここを検証してくださいとか、情報をいただかないと僕はできなかった。インタビューしなきゃいけないなんて最初は、思ってなかった。
ギルドワークスさんとやるようになってから、仮説立てて、検証するというのを知りました。知らなかったら対等に話せないやと思って、勉強も始めました。
「転」第3仮説 幻の人材紹介
(2016年4月)
下之段:2016年の4月に「友人を仲介した人材紹介」という案がでて、6月に三浦半島で「サービスを詰めよう」とギルドワークスさんと合宿をしました。でも、弁護士に確認したら、やってもいいんだけど、細かく突き詰めるとグレーだという。で、リスクを踏まえて、やめようと。その数カ月後に似たようなサービスが出てきちゃいましたけど。
上野:やはり、紹介者には職業紹介事業の許可が必要という話でしたね。検証も行いましたが、根本的なところでストップとなりましたね。
「転」第4案 シルバー人材を活用した顧問サービス
(2016年6月)
下之段:三浦半島の合宿で「シルバー人材の活用」をベースとした「顧問サービス」的なアイディアが出て。また僕はインタビューに走りました。聞いてみると、シルバー人材を迎え入れたいというよりは、社内にいる、そうした方々の再就職支援をしてほしいと、逆のことを言われて。その後もあたっていきましたが、明確な反応は得られませんでしたね。
「転」第5案 オフィスから仕事先を決めるサービス
(2016年9~10月)
下之段:第5アイディア、オフィスから仕事先を決めるサービスを考えました。求人情報だけではなかなか、会社の雰囲気までは分からない。オフィスの方針や実際の雰囲気から会社選びが出来ると良いのではないか、という仮説でした。結論、これもダメだった。ここで一旦僕は「さすがに、もうこれ以上ギルドワークスさんを巻き込めないかな」と思ったんです。
だから、続く第6、第7は市谷さんに相談していないです。連絡をせずに「こういうの良いんじゃないかな、ああいうの良いんじゃないかな」って考えていた。で、最後のアイディアが浮かんだ時に、代表の池野が「いや、そこは市谷さんに連絡してみろ」って。やっぱりここまでひきずってやっていただいた、というのがあるんですよね。池野は市谷さんのことめちゃめちゃ好きで、しかも真摯に対応していただけるので、そこはもう彼の中では「次に何か下之段がやろうと思ったときはギルドワークスでいかせよう」って思ってたようです。
市谷:間があいて、ご連絡いただいたんですよね。第5アイディアの時は、私の方も、これで進めることはできるのではないかと想像していたところがありました。ところが検証をしてみると、全く結果が得られない。良いところをみようとしても、ダメだと。既に5つのアイディアが倒れていますから、改めて、また次の仮説検証へ!というのはちょっと難しい雰囲気かなと感じていました。
下之段:そう、2016年6月の合宿の時から3か月4か月しか経ってないんですが、池野もその感じだったんですよ。「もうお前いい加減にしろよ」って。
<市谷による補足>
数多くのアイディアを考えていれば、とにかく一度プロダクトを作ってユーザー体験を伴う検証も行ってみよう、という決定をしかねないものですが、最初のアイディアを勢いで作ってしまってから、下之段さんの意思決定には妥協がなくなりましたね。最初の失敗を大いなる学びとして、その後にしっかりと活かすようにされた。その姿勢には私の方も学ぶところがありました。
仮説検証の必要性を感じ(※)、ギルドワークスとともに実際に繰り返してきた下之段さん。後編では、最後にたどり着いたアイディアとそこから得た学びについて語っていただきました。
後編はこちら
(※)仮説検証の一つの進め方である「仮説検証型アジャイル開発」についてはこちらでも詳しく紹介しています。
また「正しくないものをつくらない。 -サービスづくり7つの失敗パターン-」と題したイベントを開催します。
こちらもご興味のある方はぜひお参加下さい。
こんなことでお悩みの方はお気軽にお問い合わせください。ギルドワークスのメンバーがお話をお聞きします。
- 立ちあげたい事業があるが、本当に価値があるのかどうか自分で確信が持てない
- 新規事業を立ち上げなければならなくなったが、潤沢な予算があるわけでもないのでどうしたらよいのかわからない
- 企画が実現可能かどうか開発の視点を組み入れながら仮説検証したい
- はじめてのことばかりで右も左もわからない