仮説検証を支援する2つのアプローチ(前編)

  • #顧客開発コーチ

株式会社エムティーアイ

## なぜ仮説検証にギルドワークスの支援が必要だったか

仮説検証が進まないーーそんな課題を抱えていたエムティーアイのライフ事業部とファーマシー事業部にギルドワークスがどのような支援をしていったのか?今回は株式会社エムティーアイの高橋様に伺いました。

## 支援を開始したキッカケ

-最初に一緒にお仕事をするようになったのはいつ頃ですか?

高橋様(以下敬称略):2015年10月ですね。

- それはどんな形態でしたか。

川瀬:ワークショップを実施したのが2015年10月、その後案件に伴走する「顧客開発コーチ」としてリーンスタートアップの定着化のコーチとして現場に入っていました。

高橋:当時、私はライフ事業部という、天気情報や地図情報を扱う部署にいました。そこで企画やリーンスタートアップの定着化をサポートしていただきました。部署の企画力は低かったわけではありません。しかし、リーンスタートアップに沿った企画ができる人材がいないという課題が2015年当時ありました。

そもそも、なぜリーンスタートアップが必要だと思うに至ったかについて、過去をふりかえると、社会的な変化がありました。ガラケー時代は有料のコンテンツが一般的でしたが、携帯電話の利用がスマートフォンにシフトしたことで、競合他社や個人の出すクオリティの高いものが、無料でも手に入るようになりました。
競合他社や個人と戦うために、価値あるものをもっと素早く提供したいという課題を持つ中で、エムティーアイとしても様々な取り組みを進めていました。例えば、開発スタイルがウォーターフォールからアジャイルに変わったり、頻繁な組織変更があったり、リーンスタートアップを取り入れたり、とエムティーアイが大きく変わった時期でした。

-どんなところから川瀬さんは支援を始めたのですか?

高橋:まずはライフ事業部の企画者8人程度に対して、「検証が進捗していない」、「リーンスタートアップとしてのマインドセットが欠けている」という課題があり、その解決を支援してもらおうという話になりました。比較的組織変更が落ち着いていた部署だったので、まずはこの部署で根付かせようということで、支援をお願いしました。

川瀬:まずは、基本の「き」からということで、現場の検証状態を計測し始めました。検証が進捗していないという課題がどの程度なのかをチームとして知るためです。

具体的には、毎週「検証できてるの?できてないの?」と確認し、検証を阻害している原因は何なのかを深掘りました。その後、「ここを変えたらできるよね」という解決策のアドバイスをしたり、「こうすればできるだろう」と解決策の仮説を出したり、一緒に解決策を練っていきました。定着化支援は、これらの考え方が現場に定着できるまで伴走していくことが基本の仕事ですね。

川瀬: 計測し始めて気がついたのですが、当時は仮説を検証しようというよりも、正確で間違いのない企画を立てようという気持ちがみなさん強かったように思いますね。

高橋:はい。当時のエムティーアイの新規事業のスタートは、徹底的に事前リサーチをしていました。20ページぐらいの分厚い資料を決裁会議にかけて…ということを長年ずっと繰り返していました。

でも、他社はもっと簡潔に、素早く動いている。当社が2か月かけて資料を作っている間に、他社では動くモノができていて、さらに、その施策の結果から学び、次の施策を考えている、という状況でした。なので、やり方を変えないといけないという危機感がありました。

川瀬:会議室の中だけで、物事が決定されていくことに危機感があったわけですよね。

高橋:そうですね。なので、先に仮説を出して、それが正しいのか?課題は何だろう?という問い、今でいう仮説キャンバスやリーンキャンバスを埋めていくような形に変えていかないといけないとという意識がありました。

実際に自分たちでやり方を変えてみたのです。ところが、進捗しない。形だけ変えてもうまくいかず、もっと根本的な課題があるのではないかと考えました。それが冒頭で挙げた「リーンスタートアップとしてのマインドセットが欠けている」という課題で、なので識者であるギルドワークスに依頼をしたのでした。

-外部から入ってきた人が「どう?」って押しかけてくる訳ですよね。抵抗はなかったんですか?

高橋:抵抗…人によってはありましたね(笑)エムティーアイは失敗前提で仮説を検証しようというマインドはあまりもちあわせていなかったように思います。なぜなら、エムティーアイは事業的に成功を重ねてきたからです。だから、今までのやり方を変えることに抵抗はありました。

川瀬:当時の現場は、企画をサービスインさせることが目的になっていましたよね。私の仕事はそれを妨げるものというイメージを持たれがちなので、心理的抵抗は皆さん持たれていたかと思います。結果的に、それが進捗しない大きな原因となっていました。

高橋:しかし、ベースとして、今回はリーダー陣のほとんどが漠然とながら「変えなければならない」という気持ちがありました。中途で入ってきた方も、やり方を変えてでも「顧客に価値があるものを届けたい」という想いは一緒でした。大きな方向性は皆一緒だったと思います。

川瀬:「変えていかなきゃ」という意欲のある方を選出していただき、部門全体で、一丸となって取り組んでいただいた。私が今まで回った現場の中でも、相当、スムーズな入り方でしたね。ありがたかったです。

## ユーザーに聞くという検証

-当時の天気予報サービスとはどんなものだったのですか?

高橋:2015年当時、競合他社各社で無料の天気情報が出てきた状況でした。それらの無料の天気情報サービスに勝つこと。つまり、どんなお客様にどんな情報を出せば、お金を払ってでも使ってくれるのかを検証することが重要なミッションとしてありました。

実際、調べてみて、日本って47都道府県、地域で困りごとが全然違う、ということがわかっていました。例えば、台風の情報。よく台風が上陸する沖縄の人が知りたいのは、台風ではなくて、実は熱帯低気圧の発生情報です。対策を準備するためにできるだけ「早く」知ることが価値だ、ということが分かりました。熱帯低気圧・台風のほとんどが来る沖縄ならではですね。例えば、東京で「熱帯低気圧ができました」という天気情報は興味ないのではないでしょうか。

-首都圏で知りたい台風情報は「電車は動いてるか」「学校は休校か」ですものね。

高橋:はい。ですので、住んでる地域や人によって欲しい天気情報が全然違いました。そして、そういった欲しい天気情報の違いを見つけて、欲しい人に天気情報を届けることが価値だということはわかりました。どこまでやればお金を払っていただけるものになるのか、価値を突き詰めて検証するところへ川瀬さんに入っていただいたんですね。

さらに当時、別々にサイトとして提供していた、天気予報、地図、ナビ、レジャー情報のサイトを1つにまとめようというプロジェクトが動いていました。我々の強味である4つサイトが1つになることによって、シナジー効果を期待していました。その中で、どういう組み合わせ方で、何をどんなお客様に提供すれば価値になるのかも、合わせて検証していただいてました。

-どんな風に検証されたんですか?

川瀬:簡単なサービスのプロトタイプを作って、お客様に使っていただく。具体的にどういったプロダクトが価値として望まれているのか、インタビューでニーズと課金意向を確認するという、シンプルな検証にトライしていただきました。

-実際に使っていただいて聞くのですね。天気予報だとユーザーは一般の人ですね。

川瀬:そうでもないんですよ。実際はさまざまな職業の方がいらっしゃって、漁師さんなど普段の生活の中では接点がない方にもインタビューしましたね。

高橋:2015年以前のエムティーアイは、お客様に話を聞いて企画を立てるという経験がとても少なかった。お客様の声をアンケートや問い合せ対応で聞くことはあったんですが、実際にお客様に会ってインタビューをしたり、そこで何か学んだりという文化が全然なかったんです。そこに川瀬さん、ギルドワークスさんが入って、そういう文化を根付かせていった。

川瀬:それが2015年秋から2016年の3月ぐらいにかけて。ご一緒させていただいたのは5か月ぐらいですね。実際に案件で満足いただける結果も出てきて、現場の意識や行動も変化が起きてよかったねという話になったころで高橋さんが異動になりました。

また、いつかお仕事をご一緒したいですねというお話をしていたのですが、約1年後の2017年の3月の終わりから、高橋さんとまたお仕事をご一緒することになりました。


## 薬局さんのニーズと患者さんのニーズ

-今現在のお仕事について伺いたいと思います。2017年4月からは高橋さんはファーマシーサービス部に移られたんですね。そこではどんなことをされているのですか?

高橋:今、我々がやっているのは、薬剤師さんと患者さんのコミュニケーションの促進する「薬局向けCARADAパック」というサービスです。

今、薬局さんの業務は厚生労働省から指導もあって、今まではお薬を渡すことがメインだったものが、患者さんの健康サポートに変わってきています。当然、薬局さんとしては、多くの患者さんに利用してもらいたいと思っています。そこで、薬局さんが持つ「自分のところを好きになってくれるお客さんを増やしたい」「健康サポートに役立つサービスを提供したい」という2つのニーズをかなえるパッケージとして提供しています。

-薬局さんにとっても一般の患者さんにとってもすごくメリットがありそうですね。

高橋:はい。「薬局向けCARADAパック」は、患者さんが記録したバイタルデータが薬剤師さんも見えるのが特徴です。

「薬局向けCARADAパック」のアプリと機器を患者さんに使っていただくことで、今まで自己申告だったデータを、薬剤師さんも知ることができるようになります。そうすると、患者さんはより的確なアドバイスがもらえます。患者さんからは「この薬剤師さんすごい私のこと考えくれている」と、より、信頼を得ることができます。

-どういう風に今の形になったのですか?

高橋:最初に、「CARADA」というバイタルデータをとって健康管理する個人向けスマホアプリがありました。目線を変えて法人経由でもニーズがあるだろう、ということで次に一般企業向けを始めました。

一般企業向けにある程度成果が出始めて、さらに次のステップを考えたときに、「厚生労働省が健康サポートを薬局に指導しているが、薬局さんはそのサポートの方法がわからなくて困っている」ということを聞きつけました。そこで、CARADAは薬局さんにもお役に立てるのではないか?という話になりました。

-薬局さんにヒアリングされたりとか取材に行かれるんですか?

川瀬:かなり足を運んでいます。東京以外の地方にも出かけて行ったりしています。

-実際に聞いてみると、薬局によっての違いはあるのですか?

高橋:全く違いますね。チェーン店と個店、立地、など色んな条件によって、求められる機能がまったく違います。これは、足を運んでみて初めて分かったことでした。

これらの違いに対しては、今の段階では、同じ機能を提供しつつ、使い方やおすすめの仕方をそれぞれの薬局さんの状況に合わせて変えることで対応しようと考えています。

-今、進めているのはどのような部分でしょうか?

高橋:様々な検証をする中で、バイタルデータがあれば薬局さんから患者さんに返せるメリットもあるため、有料であっても導入をしたいという薬局が多いことがわかりました。

ただ患者さん側がバイタルデータを取ってもらうことが難しいです。「口で言えば済むのに、わざわざ何でこんなアプリケーション使わなきゃいけないの」という意見もありました。データをとることにどんな意味があるかすぐにはわからない、というところが一番の困りごとです。そのため、いかに患者さんに使ってもらえるサービスにするかが課題です。

-なるほど。そういえば、医療だと高齢者も多いですよね。

高橋:そうなんです。若い人はスマホを持っている人が多いが、健康に関心が薄い人が多い。高齢者は健康に興味があるが、スマホは持っていない人が多い、というミスマッチが起きています。どういうものを提供すれば使いたくなるかを順次検証している状況です。

川瀬:たとえば、薬局は「子どものいるママさん」の利用も多いのですが、ひとくちに「ママさん」といっても本当にいろんな方がいらっしゃいます。そのパターンを把握するだけでも結構大変でした。

-そこにギルドワークスはどう関わっているのですか?ライフ事業部の時と同じく、コーチでしたか?

川瀬:薬局向けにCARADAを拡張させていく戦略の中で、先ほど高橋さんがお話された患者さんにいかに使ってもらえるサービスにするかの部分で、仮説検証の部分をお手伝いしています。

形態はコーチではなく、現場メンバーの一人として入る形をとりました。一緒に企画を考え、計画を立てて街に出かけ、検証・分析をしています。ギルドワークスと一緒に進めていく中で、技法やマインド・考え方を吸収していただき、いずれは自分たちでやれるように伴走している状態ですね。

後編は若手社員のホープ、神原様も含めてお話をうかがいます。

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