開発チームは「もっと良いものを作る方法を自分たちで考える」道を歩みはじめた

  • #開発現場コーチング

株式会社ハート・オーガナイゼーション

お客さまインタビュー:株式会社ハート・オーガナイゼーション 金内様

医療系の学会事務局の受託運営や、Web上で症例情報を共有できるサービス「e-casebook」などを運営している株式会社ハート・オーガナイゼーション様。より良いプロダクトを生み出す開発プロセスの確立や、より成果の出るチームづくりを模索していました。その中でギルドワークスの現場コーチが入ったことでなにが変わったのか。取締役・CTOの金内様にお話をうかがいました。

開発チームの枠を越え、組織全体を良くしようと現場コーチを提案

金内:ギルドワークスさんにお願いする前は、明確な開発プロセスも確立されておらず、チームよりも個人が黙々と自分のタスクを完了していく、という感じでした。私としては、もっとチームとしてのまとまりや成果を出せる開発チームにしたいと思っていました。
そんな中、頭に浮かんだのが前職時代、ともにプロダクト開発に携わっていた中村さんの顔でした。中村さんと一緒にプロダクト開発に携わっていた時のチームが、自分にとって理想のチームだと思っていて、そんなチームができあがればかなり前進できるんじゃないかと考えたんです。

中村:そうだったんですね、ありがとうございます。

金内:前職時代、中村さんはスクラムマスターとしてチームに関わり、チームが自立してリズム良く開発に取り組めるようにしていました。あの時の雰囲気というか、仕組みをハート・オーガナイゼーションにも持ち込みたいと思って「久しぶりにちょっと一杯どう?」って感じで相談しました(笑)

中村:そんなスタートでしたね(笑)

金内:「あの時のプロダクト開発のスタイルをうちでもやりたいんだけど、どうすれば良い?」と相談した後、代表の菅原にも会ってもらって、中村さんに依頼しようと決めました。しかも、私はスクラムマスターとして来てくれたらいいなぁ、と思っていたのですが、中村さんはさらに一歩踏み込んだ現場コーチという立場での参画を提案してくれたんです。ちょっと期待以上の何かを感じましたね。

最初は「タスクの共有」と「お互いを知る」ことから始まった

-現場コーチに入って、最初はどこをとっかかりに進めていったんですか。

中村:もともと個々に仕事に取り組んでいる傾向があると話を聞いていましたから、お互いどんな距離感でどんな協力をして仕事をしているのかといったメンバー間の関係性を見ました。CTOの金内さんや経営層の方々からの影響、企画や営業との関係性なども含めてですね。きちんと言いたいことが言えているか、共働できているのか、チームの仕事がうまく進んでいない時に相談しているかなどです。
観察してみると課題や改善の余地があったので、まずタスクを大変だから取って欲しいとか、手が空いたから取るよといったコミュニケーションがどのぐらい行われているか、その後タスクの受け渡しが行われているかを一週間単位で記録しました。最初はゼロだったんですが、徐々に移動が増えていきましたね。

金内:そうそう、最初は「タスク移動ゼロ」だったなぁ

中村:「なぜゼロなのか?」を話し合ってもらうと「付箋に書いてある内容がわからない」とか「相手ができるかどうかわからないから、お願いしづらい」といった言葉が出てきました。

金内:それで「お願いできるように、お互いをもっと知りましょう」という取り組みが始まったんですよね。例えば、自分のテクニカル面のプロフィール。得意なことと苦手なこと、今何を得意にしたいと思っているか、といったことを自己紹介する。毎日顔を合わせて一緒に仕事しているのに案外知らないことが多くて驚くんですよ。テクニカル面以外でも知らないことが多いと気づきました。

中村:あとお互いの価値観なんかも話し合いましたね。

-仕事に関係ないことも話し合うんですね。

金内:チーム内でいろいろなテーマで話し合っていました。

中村:最初からワイガヤしていて規律を整えることで変わるチーム、真面目だけど個別に仕事をしてしまいお互い知らないチームなど、さまざまなタイプがあります。今回はお互いを知るところから始めるのがうまく行きそうなので提案しました。
続いてチームとしての目的はプロダクトオーナー(以下PO)の金内さんが知っているから、より深く理解できるように定期的に話をする場を持ちましょうという感じで進めていきましたね。

金内:そんな感じでしたねぇ(笑)。黙々と自分に与えられたタスクをやる感じで、隣の人がいっぱいいっぱいに見えても「隣の人大変そうだねぇ」と思うだけで終わっていた。それは情報がなかっただけなんですよ。「大変そうに見えるけど、何が大変なのか、なぜ大変なのかがわからない」状態だったんです。

無関心なのではなく、方法がわからないだけ

-「お互いを知る」ことと「お互いのタスクを共有する」ことで、どんな変化が起きたのでしょうか。

金内:放っておいても、お互いを知る機会は少ないしタスク移動も起きません。デイリースクラムという毎日の朝会、課題や問題、それに対する改善を話し合う2週間に1度のふりかえり、次の2週間で何をどうやって作るのかを話し合う計画ミーティングを継続的に実施してきました。
そこでわかったことは、皆何かしらの問題意識を持っているということでした。それを放っておいたら「なんかイマイチだな」とか「アレがこうなればいいのに」と思ってモヤモヤしているだけ。でも、それをミーティングを通じてチームで共有し、「これは問題だ。改善しよう」と合意できたらチームとして解決に向かって動き始める。自分の問題意識やお互いの考えを共有して、問題が改善されるようになると、チームとして前進していく。そうなるともっとお互いを知りたくなる。すると「ちょっとランチ会をやってみたい」とか、「朝に加えて夕方もミーティングをやりたい」という声が自発的に出てくるようになりました。

中村:ああいった動きが出てきたのは、良かったですよね。

金内:やっぱり上長が指示するのではなく、課題と向き合っているメンバー自らが「こうしよう」と言えるチームになってきたことは素晴らしいと思います。

中村:チームが自分たちで問題を解決できることがわかると、解決することが楽しくなってきたんじゃないかと思います。みんな真面目だから、それがわかってくると自分たちでやろうという気運が一気に高まりましたよね。

-無関心というわけではなかったんですね。

中村:良くする方法が分からなかっただけかなと。
ふりかえりの時にチームから「ユーザーのフィードバックがないからわからない」という意見が出たんです。これはチームがうまく作れるようになったらよく出てくる会話で、もっとユーザーのフィードバックを知りたいとか、ユーザーのところに会いに行きたいとか、ユーザーの使い方を知りたいという現れなんです。これはチームが成長してステップが一つ上がった証だと思っています。

ステークホルダーの積極的な協力で効果も波及範囲もアップ

-今回、現場コーチとしての効果がしっかりと出た要因はどこにありますか。

中村:私から金内さんに「CTOとしてこういう発言をして欲しい」とか「次はこういう課題がこんな風に起こると思うので、POとしてこういう風に対応してくださいね」といったお願いをしていたのですが、それらをきちんと実践してくださったのが大きかった。でも、一番は金内さんが信頼して任せてくださったからです。
こういう取り組みは、ステークホルダーの協力って大事なんですよ。現場が良くても、ステークホルダーが無関心だったり、横やりを入れてくる現場もある中で、金内さんは非常に協力してくださった。だから早かったと思います。

金内:中村さんとは、付き合いも長いですからね(笑)。やって欲しいことをはっきり言ってくれるし、できることはできるだけやろう、と考えていました。

-金内様はCTOとPOを兼務する形でしたが、それぞれの立場の違いを意識しておられましたか。

金内:ありましたね。POとチームは対等の関係ですが、CTOとしては上長になるという立場の違いは意識していました。同時に、POとしての責任範囲と、CTOとしての責任範囲もきちんとわけようと意識していました。ふりかえりはCTOに近い立場、計画ミーティングではPOに近い立場、と意識してやっています。

中村:最近、ふりかえりのミーティングでは少し距離を置き、その場にはいるけど口は出さない感じですよね。

金内:ちょっと距離を置いてみたら悪くなかったので(笑)

中村:今は開発チームが自分たちで課題を見つけてどれが重要かを判断し、どう対応するかまで話し合っています。私も最近は、時々「なぜそう思う?」と理由を聞いたりする程度で、だんだん見守る割合が増えています。

金内:中村さんから「チームとして次のステップに進むには、私があまり参加しない形で開発チームとしての考え方をまとめる場を作っていきましょう」というアドバイスがありました。それでやってみると、これが意外にうまくいって。チームメンバーが自分たちで考えてアクションするという動きになりましたね。

中村:もっともっと自己組織化していくと良いですよね。

-中村さんの現場コーチの取り組みが、開発チーム以外の部署や会社全体に波及した部分はありますか。

金内:他部署から「中村さんが来てる時、開発チームは楽しそうにやってるよね」と言われてますね(笑)

中村:そうなんですか(笑)

金内:結構注目されています。ホワイトボードに付箋を貼ってタスクボードを作っていますが、そうした取り組みをセールスチームでもやってみようという動きが出たり。「スクラムって何?」と、開発プロセスに興味を持って聞いてくれる社内のチームもありました。実は今、中村さんには社長の菅原も入っているプロダクト企画のサポートにも入ってもらっています。

依頼には「覚悟」が必要

-現場コーチを検討している人に、アドバイスをお願いします。

金内:ぶっちゃけて言うと、導入を検討している人は「覚悟した方がいい」と思います(笑)
おそらく相談する時点では、問題は自分じゃないどこかにあると思っていて、それを解決するために中村さんに相談する。でも時には、自分に内在する課題に向きあわねばならない時も出てくる。
プロダクト開発には多種多様な要素があり、そのすべてがうまく行くぐらいじゃないと、結果的に問題なくうまくいくことなんてあり得ない。でもその時に何が問題なのかを見つけるのはとても難しいんです。中村さんの現場コーチは、問題の本質がどこにあるのかを一緒に見極め、解決していくパートナーとして素晴らしいと思います。ただ、見つかった問題は、検討している人が想定していることとは全然違うかもしれないから、それは覚悟しておきましょう、と(笑)

中村:よくありますよ、そういうこと。マネージャーに相談されて、現場で課題をヒアリングすると、実は同席していたマネージャーのふるまいが課題だったということも。その後、ヒアリング結果のレポートを出すと「えっ?」みたいな(笑)

金内:マネージャーが「え?俺?」みたいな(笑)

中村:そこで「それは良くないからなんとかしましょう」となるのかは、クライアント様次第。「覚悟」というか「見たくない部分を見せられる」可能性は高いかもしれませんね。

金内:でも本気に解決したいと思うなら、依頼するのが良いと思います。

中村:「誰が」といった個人よりもチーム内の関係性が重要なんです。1つの例ですが「テストでバグがたくさん出るのはテスト技術の不足が原因だ」と言っていた現場があったのですが、実は単なる会話不足が原因だったケースもありました。席が遠かったり、会話する場がなく、お互いがお互いの話を聞けない状態だった。席替えして毎日15分だけスタッフ同士が話をする時間を作ったら、バグが減って解決したこともあります。

金内:コミュニケーションで解決する問題って、思ったより多いんですよね。

中村:私がコーチとして気をつけているのは「素早く実験するマインドセット」。一度決めたら、絶対に変えてはいけないと思い込んでいる人やチームに対して「まずは実験しみませんか?」とよく伝えます。でも、実験として1週間やってみて「今のやり方は僕らにはあっていないから別のやりかたを探そう」となれば、たった1週間のコストで学びも得られる。
先ほどのランチ会も「一回やってみよう」という実験だったんです。やる前はネガティブな意見を持っている人もいた。でも、やった後で聞くと「いいね」という人がほとんどで、「やめたい」という人はいなかったんです。その実験を受けてチームは続けることにしたようです。

金内:はい、今週もありますよ。

中村:現場コーチとして意識していることのひとつが、制約であったり、何を思い込んでいるのかを探り実験をして解き放つこと。思い込みの原因は、上長の言動や昔から現場にある風習みたいなものなどがあります。

金内:ややもすると見過ごしてしまいそうなことで、人の言動って変わるんですよね。中村さんにファシリテーションしてもらっている時に、そうした部分への気遣いを感じます。

中村:先ほどの話に戻りますが、「覚悟」がいるとは面白いですね。確かにいい加減な仕事はしたくないので「不都合な事実が見えても続けますか」というのは事前に聞くこともあります。
ギルドワークスもスクラムを教えることがゴールではなく、クライアントのチームが自分達自身で抱えている課題を発見、解決して、継続的にうまくなれるようにふるまえるようになるのがゴール。何があってもそこをめざす覚悟を持っておられるなら、いくらでも付き合いたいですしお手伝いしたい。
金内さんは、昔から「良いプロダクト」に対する熱い想いを持っておられるのを知っています。金内さんからは、自分はプロダクトづくりは分かるけど、チームをうまく回すまではできないので、手伝ってほしいという言葉がありました。「金内さんにも遠慮なく行きますよ」と言いましたね(笑)

理想は「正しいものとは何か?」の探求に注力できる環境

-「正しいものを正しく作る」ことはやはり大変なのでしょうか。

金内:ギルドワークスさんが「正しいものを正しく作る」と掲げているのを見て、なるほどそれは大変だと思いました。
ソフトウエアって、ある時期までは「作る」こと自体が希少価値だった時期がありました。でも今は、オープンソースやフレームワークといった技術的環境が整ってきて、プロダクトを簡単に作れるようになったことで、「正しく作る」だけならまぁまぁできる時代なんです。だけど、その前の「正しいものを」という部分が非常に難しい。ソフトウエア開発における課題が、「正しく作る」から「正しいものとは何か」を見つけることに比重が移ってきていると思います。スクラムは、技術的な課題をどんどん解決していくのですが、解決していくほどに浮き彫りになってくるのが「正しいものとは何か?」なんですよ。ここに対して真摯に取り組んでいかないと、本当に「正しいもの」はできないと思います。「正しく作る」ことと同時に「正しいものとは何か?」に目を向けられるかどうかが、プロダクト開発における大事な部分になってくると思います。

中村:開発チームが自立すると、もっともっと「正しいもの」や「良いもの」を探求するところに注力できるようになります。チーム内から「もっと正しいものを探しましょうよ」という声が出たらさらに嬉しいですね。

めざすのは、開発チームの現場からいなくなること

-今後は中村さんの関わり方が変化していくんですか。

中村:コーチはずっといる存在ではなく、チームが自立したらチームから離れるのが良いと考えています。離れてから半年経って「こんな課題をこういう風にして取り組んでいます」と聞かせてもらうと嬉しいですね。
ハート・オーガナイゼーション様もそういう現場の一つになれば良いと思っています。開発チームからは早く離れたいし、離れられるはず(笑)。本格的に企画をお手伝いして、離れたところから開発チームがさらに良いプロダクトを生むサポートをしたいですね。

医療の可視化や技術の発信と共有をめざすハート・オーガナイゼーション様。
開発チームは、お互いを知り「正しいものとは何か」を探求しながら、これからも成長していくでしょう。

この記事をシェア

こんなことでお悩みの方はお気軽にお問い合わせください。ギルドワークスのメンバーがお話をお聞きします。

  • 立ちあげたい事業があるが、本当に価値があるのかどうか自分で確信が持てない
  • 新規事業を立ち上げなければならなくなったが、潤沢な予算があるわけでもないのでどうしたらよいのかわからない
  • 企画が実現可能かどうか開発の視点を組み入れながら仮説検証したい
  • はじめてのことばかりで右も左もわからない
お問い合わせはこちらから