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事業やプロダクトの立ち上げとは 「探検」 のようなもの。ゼロから事業やプロダクトを立ち上げる時、何から考えるのか?必ず考えるべきことは何か?
月刊ギルドワークス3月では翔泳社の岩切晃子さんをお招きして、ご自身の「探検談」について語っていただきました。
前編では市谷のトークをご紹介します。

##仮説検証型アジャイル開発で新しい事業を立ち上げる
ギルドワークスで 「仮説検証係」 をつとめる市谷です。私からは新規事業を立ち上げる時に、どんな風にやっていて、どんなことが起きるのかをお話ししようと思います。
ギルドワークスは「正しいものを正しくつくる」を旗印に立ち上げた会社です。「正しいものを正しくつくる」について話し出すと長くなるのでしませんが、人に必要とされるものをちゃんと作ろうということです。
私はこれまで人材サービス、製造メーカー、保険会社、食品加工メーカーなどなど、様々な企業の仮説検証を支援してきましたが、特に私の場合は何もないところから何かを生み出すの0→1が多いです。
「仮説検証型アジャイル開発」 と名付けていまして、アジャイル開発に仮説検証という考え方をジョインさせて、何を作るべきなのかをちゃんと検証した上で、プロダクトをアジャイルに作っていくという考え方でやっています。
「仮説検証型アジャイル開発」の考え方の下敷きには、リーン製品開発があります。トヨタ生産方式が海外でリーン製品開発という考え方になり、それが日本に戻ってきてリーンソフトウェア開発、リーンスタートアップになった、という流れがあるわけですが、それを基本にしています。

##正しくないものを作らないというアプローチ
「正しいものを正しくつくる」ですが、「これをやれば会員は何パーセント増えます」とか「こうすれば売り上げがどんどん上がります」みたいな、正解を見つけに行こう、ということではないんですね。
絶対的な正しさは、見つけようと思ってもなかなか見つかるものではありません。置かれている状況、対象としているユーザー、やろうとしているテーマ、クライアントの立ち位置など、色々な要素から「この方向感であれば世の中に問うてもいいんじゃないか」という相対的な可能性を見つけていく、そんなイメージです。
なので「むしろ正しくないものをあえて作らないようにしよう」というのがあります。やってみると「ぜんぜん考え違いだった」というのが分かるんですね。「この人達には通用しない」というものを作らないようにしよう、というアプローチで、要らないもの、間違ったものを選択肢から外していく。すると最終的に「こういう人に、こういうものを提供すれば、可能性があるんじゃないか」と「正しいものらしきもの」が残る。それをプロダクトに仕立てていくという考え方です。
プロセスには大きく分けて2つあります。ユーザーの体験を軸に、何を作るべきかを特によく考える時間と、これでよさそうだと意志決定をした後に、本格的にプロダクトを作っていく時間。作らない時間、作る時間ではなく、探している時間と、作る時間を分けています。
この2つを混在させると、非常に混沌としていくんですね。何を作っているか分からんけど、とにかく作っていく、みたいな探索的な開発をすることもありますが、作るのにコストがかかりますから、仮説検証活動を最初にやって、作らずに済むものは安易に作らないようにしています。
とはいえ、人に刺さるかは体験してみないと分からない。机上で論じたり、プロトタイプをいくらタップしても本当のところは分からない。やはり体験は大事で、本当に体験しようと思ったらちゃんとプロダクトを作らないといけない。作りすぎず作らなすぎず、そういう矛盾と言うか狭間で検証しながらプロダクトを作っていきます。
何を作るべきか、それをどう実現するべきか、色々な選択肢があるはずです。選択肢がなかなか狭まらず、ずっと広いままでいってしまうと、「あれもいい、これもいいよね」となり、本格的に作るところで混沌としてしまうことが多いです。
一方「こういうものをこういう人に向けて作る」と狭めると、他の選択肢がバッサバッサ切られて、あまり期待値は高くないですよね。それで上手くいく場合もありますが、結果的に途中で終わってしまうというパターンもよくあります。
決め打ちにしてしまうと、外れた時にとんでもないことになるので、リーン製品開発のセットベースという考え方に基づいていて、できるだけ選択肢の幅を持って進めています。
要はだんだん具体化されると言うか、選択肢が消えていて定まっていくという感じです。選択肢が広すぎてもいけないし、いきなり萎めていい訳ではない、というわけで仮説検証が必要なのです。
仮説検証活動も「このステップを踏んでいけばいい」というものではなく、状況に応じて、ユーザーインタビューをするのか、ランディングページを立てて反応のアンケートをとるのか、それとも自分たちで使ってみるのかなど、いろんな選択肢があります。
仮説検証では、精度と頻度を重視します。検証の精度が高いと、よりリアルな体験ができる。本格的なプロダクトに近いものを作るのが精度の高い検証です。一方、頻度が高いというのは、精度を犠牲にして、コストをかけずに簡単にできる、沢山やれるみたいなことを重視した検証になります。このバランスを調整しながらやっていきます。
ざっくり言うと、ものを作るというのは精度、ユーザーインタビューとかアンケートをとるというのは頻度の高い検証になります。
そのプロダクトの置かれている状況や、どこまで分かっているかで頻度や精度を調節します。例えば、何を作ったら良いのかゼロベースの時にいきなり精度の高い検証はしない。「どういうところに引きがあるだろう」と頻度を重視して検証するでしょう。しかし、やがては体験してもらわなければ分からないので「実際に触れるものを作ろう」と、精度を高める活動をしていきます。

##日本食研さんの場合
日本食研さんは焼き肉のタレのCMや愛媛県今治市のKO宮殿工場が有名な食品会社さんです。B2Cというイメージが強いかもしれませんが、B2Bをメインとしており、調味料だけではなく加工食品の製造から販売まで一貫して行なっています。
ギルドワークスでは日本食研さんの新規事業の立ち上げをお手伝いしています。「インターネットで物を売る、プロダクトを作る」という構想を元に「誰向けなのか」「この構想によってどんな問題を解決するのか」など、コンセプトを掲げることから始めました。
まず「何が分かってないのか」が分からないと「何を分かりに行く活動をすればいいのか」が組み立てられないので、仮説を作っていきます。どういう人がいて、どんな問題に対処するのか?、どう解決するのか?など、様々な観点から整理していきます。そうすると、よく分かっている部分と分かっていない部分が見えくるので、これを持って想定するユーザーにインタビューをしに行きました。
次にインタビューで分かったことをユーザーの行動フローベースで「何が必要か」モデル化をしていきます。具体的には「ユーザーはこういう行動するので、こんな問題が起きて、そのためにこんな機能がいる」というのを見立てていくことをします。
また、言葉だけでまとめるのではなく、プロトタイプを作成し、想定ユーザーに体験してもらって反応を得るという検証活動を繰り返して行きます。
この様に検証を繰り返していくと「こういうものが必要なのかな」ということが見えてきます。
ただ、アジャイル開発のスプリントを回すには粒度が荒かったりバラバラだったりするので、ソフトウェアの要求として何が必要なのかというレベルに変えていく活動をします。その後、いわゆるスクラムでスプリントを回していくことになります。
プロダクトを作っていくということを言い方を変えると、「何が必要だったかよくわからないものを形にしていくことで、共通理解していく」ということなんです。スプリントを重ねることでようやく「我々は一体何を作っていたんだっけ」から「なるほど、こういうものが必要だったんだ」と理解し始めます。これに基づいて、またフィードバックやスプリントを回していきます。
詳しくはこちら
※食品会社における情シス部門の新規事業仮説検証&開発事例(前編)
※食品会社における情シス部門の新規事業仮説検証&開発事例(後編)
##2つの戦い
日本食研さんの様に、大きな組織で新規事業をする時は2回の戦いに直面します。
1つ目は、プロダクトの方向性を見定めるところです。「ピリッとしたコンセプトのプロダクトが描けるか」にプレッシャーがかかるんですね。方向性を見いだすために検証を繰り返すんですが、見つかるかどうかはわからない中で活動をするのは結構プレッシャーがあります。
正解があるわけではない、正しくないものは作らない、じゃあ何も作らないのかと言うと、そうはいかない。事業というのは何か起こしてビジネスを作っていくことなので、何もしませんというのは、ビジネスのミッションを果たしてないことになります。
2つ目はコンセプトを定めた後。
組織の規模が大きくなると、どうしても検証で発見し合意したコンセプトを経営の方に理解してもらうのが難しくなります。検証活動を並走しているわけではないので、いきなり理解してもらうというのは難しい訳です。経営の判断によっては、全部なくなる可能性もなくはないので、事前に説明したり、検証結果を整えて根拠を展開したり、チーム一丸となって準備をしていきます。
ということで、仮説検証型アジャイル開発のやり方は色々、大事なポイントも色々あるんですが、最終的には、一緒に作っている感覚が大事かなと思っています。それはチームでもそうですし、クライアントとの間でもそうですね。
「クライアントから頼まれて作っています」というスタンスだと、新規事業を立ち上げる中で出てくる、様々な課題を乗り越えられない可能性が高いです。乗り越えるためには、いかに「一緒に作るということを背負っていくか」だと思います。向き合う姿勢が、最後に効いてくると思いながら、プロダクト作りをやっています。
これで私の話を終わります。ありがとうございました。
後編では、岩切さんのトークと会場から寄せられた問いに答えた内容をお伝えします。
