- #開発現場コーチング
株式会社ミスミ

「ギルドカンファレンス2018」では、ギルドワークスが現場でクライアントやその問題についてどのように向きあっているのか、複数のクライアントから普段の姿を語っていただきました。
登壇したミスミの趙様、芝田様、そして合同会社JEIの稲野様には、「正しいものを正しくつくる」現場を増やすことをミッションとしているギルドワークスの現場コーチが、実際の現場でどのように関わったのかについてお話しいただきました。
登壇者
・趙 黎明様(株式会社ミスミ 3D2M企業体 3D2MInnovation推進室 meviy事業基盤開発チームリーダー)
・芝田 篤史様(株式会社ミスミ 3D2M企業体 3D2M金型事業部 3D2M金型加工品事業チーム 事業チーフディレクター)
・稲野 和秀様(合同会社JEI CEO)
・中村 洋(ギルドワークス株式会社)
##2人の現場コーチ
ギルドワークスの現場コーチは「正しいものを正しく作る現場そのものを作る」をミッションとして、チームビルディング、プロセス改善、技術支援などを通じて現場の改善に取り組んでいます。開発チームだけでなく、企画や時には組織を対象とすることもあります。
今日は私たちとミスミさんがやっているプロジェクトについてお話ししていきます。
ミスミさんにはmeviy(メヴィー)という新規事業があります。meviyは3Dデータをアップロードするだけで、見積もりと納期を即時回答、納期短縮ができるWebサービスです。不確実性の高い新規事業を進める中で、素早く方向転換をしながら継続的にリリースし続ける現場を実現するために支援することになりました。
稲野さんと私がコーチとして、ミスミの趙さんと芝田さんと相談しながら進めています。当初は主に開発チームの立ち上げを支援していましたが、今ではプロダクトオーナー(PO)の支援もしています。
後の質問に関わってきますが、開発そのものはミスミさんではなく、他の開発会社に受託開発という形で進めています。
このセッションは事前に用意した質問と会場の皆さんからの質問に答える形で進めていきます。
##アジャイル開発をやろうと思った理由
ーー 最初の質問です。「なぜアジャイル開発をやろうと思ったの?」
芝田様(以下敬称略):開発を始めたのは今から4年ほど前だったのですが、実はその前にあるシステム開発で失敗をしています。ユーザーの声を聞かずに作り切ったら1社にも使って貰えなかったんです。その時の反省から、世の中に普及している訳ではない不確実性の高いmeviyのようなシステムはアジャイルで行くべき、ということは認識していました。
中村さんに入っていただいたのが1年前頃です。この時期にちょうど社内で、どのような開発の進め方がいいのかという議論をしていて、色々な意見がありましたが、お客様に素早くサービスをリリースしていくことが大事だよねということになり、本格的にアジャイルやスクラムに取り組んでみようということになった訳です。
趙様(以下敬称略):meviyはキャズムの理論に従って最初はスモールスタートでいき、メジャーマジョリティのお客様を攻略するというアプローチを取っています。マジョリティの顧客向けの機能強化をしなければと社内プロジェクトを立ち上げ、要件を詰めたところ、開発に数ヶ月かかってしまいリリースできないということになり、危機感はあっても対策が分かりませんでした。
その危機感にプラスして芝田からのプッシュがあったので、スクラムに挑戦することになりました。
##2人の現場コーチ

ーー 会場からの質問:「現場コーチが2人いる理由をお聞きたいです。アジャイルではよくあることなんでしょうか?」
中村:理由は2つあって、1つはその当時、私の身体が空いてなかったんですね。当初、支援対象のチームのうち、1チームにはスクラムマスターがいなかった。そのこともあり、週2,3日スクラムマスター役をできるコーチがいるとチームの立ち上がりがスムーズになると考え、稲野さんに声をかけました。
もうひとつはコーチって絶対な存在ではないんですね。「こうしたらどう?」という経験則や原則の話はしますが、それ以外はコーチによって見え方、そこからのフィードバックが異なることもある。2つの異なる意見をチームがどう考えるのかという効果もあって、今回は2人でやることにしました。
稲野:僕も今までは1人でやってきて、2人でやるのは初めてでした。中村さんの言った通りコーチとしてもお互い補完することができて、効果があって面白いなと思います。
よくあるかというと、まだ少ない方ですが、もしかするとこれから増えるかもしれません。
中村:趙さんと、芝田さんはコーチ2人というのをどう感じましたか?
趙:我々としては非常にありがたいですね。2つのチームでメンバーは十数名います。コーチが1人だと全体が見えないですし、現場は毎日動いているので稲野さんのような週何回か来られる方がいれば、常に現場とコミュニケーションが取れます。中村さんも全体に対してワークショップやレクチャーを行ったりして、うまくお互いに補い合いながら現場を回してくれているので、我々としては非常に良かったです。
芝田:結果論かもしれないですが、稲野さんが割と現場に寄り添って困りごとを聞いてくれて「じゃあこういうやり方があるんじゃない?」などうまくチームを導いてくれて、中村さんは少し引いた目線で、スクラム全体を広く見渡して意見を言ってくれて、蟻の目鷹の目じゃないですが、目線の違うコーチがいるのはすごく良かったと思います。
ーー 会場からの質問:コーチ間で意見が割れたエピソードがあれば教えてください。
中村:それは、割と日々ある気がします。実際にできたものをユーザーにデモする時に、私が「それはこうしてみたらどう?」と言った時、稲野さんは「そこまで言うか」みたいな話があったりとか。
稲野:最終的に目指すところは一緒なんですが、2人のアプローチの違いはちょくちょくあったと思います。
中村:チームが改善すればどちらでもいいんですが、例えば、ふりかえりの参加者にPOを求めるか求めないか。私はどちらかというといなくてもいい、稲野さんはいた方がいいという考え方で、「それはこういう理由、背景でですよね」みたいな話を2人でしていました。チームからは「どちらがいいか実験してみよう」となったこともありました。
##視座を揃える工夫

ーー会場からの質問:「視座を揃える工夫はどんなことをしていますか?」
趙:基本は地道にコミュニケーションをするしかないなと思っています。それは大きく2つありまして、コミュニケーションの質とコミュニケーションの頻度です。
まずコミュニケーションの質ですが、最初スクラムを立ち上げる時にインセプションデッキをしました。開発チームと事業メンバーも含めた全員に参加していただいて「なぜ我々はここにいるのか」「夜も眠れない問題は何か」とか大きなところの目線合わせをしました。さらに、チームメンバーがお互いのことを理解しなければいけないので、ドラッカー風エクササイズもやりました。
頻度に関しては、我々事業メンバーとPOは頻繁に現場に行かなくてはいけません。メンバーはロケーションが離れている中でも半分ぐらいの時間を開発チームと一緒にスプリントのレビュー、プランニング、ふりかえり、リファインメントを毎日やっているし、常に一緒に動いて会話をしています。
芝田:もう1つPOの目線を揃えるためにやっていることですが、スクラム体験ゲーム(トランプを使ってスクラム開発、及びチーム開発の改善サイクルを体験できるゲーム)を通じて、POも率直に開発チームとコミュニケーションを取らないとチーム全員の目線が揃っていかないということが実感できて、非常に良い経験でした。多分あのワークショップをきっかけにひとつのチームになったように感じます。
例えば、我々が商談をする展示会に開発チームを招待して、このプロジェクトで扱っている製品はどういうものか、業界はどういうものか、ということを知ってもらうきっかけ作りをPOが自らできるようになったのは非常に大きかったです。
中村:金型を作っている展示会が大阪であったんですね。開発現場は東京なので、本来はミスミさんのPO兼営業の方だけが行く予定でしたが、チームほぼ全員が展示会に行き、どういうお客さんがその金型を求めているのか、何を質問するのかといったことをその場で知って、お客様の姿をリアルに感じていました。
そのチームのPOはどういう成果が上がったかをダイレクトに伝えていました。使ってもらったかではなく売れたかという話です。
「商品がこれだけ売れた、しかもこんな機能があったらすぐ受注が取れそう」みたいな情報をバンバン流してきて、あるリリースから2、3日たたないうちに、チャットツールで「売り上げが上がりました。ありがとうございます」って。
開発チームは喜んでましたね。「自分たちがこれを作ればこのプロダクトがこうなる」というのが分かっているので、やはりモチベーションが高くなる。これは割と視座が合うという話でもあります。
##失敗が許される企業文化
ーー 会場からの質問:1回失敗して資金をドブに捨てた後に、2回目の資金は大丈夫だったのでしょうか?
芝田:弊社の事業文化の非常にいいところは、失敗が許されるところです。その代わり強烈な反省論は書かないといけないんですが(笑)
ただ、いきなり例えば何千万くださいという訳にいかないので、出来るだけ小さい予算で始められるよう計画しました。確保した予算の範囲で事業を始め、お客様の支持を獲得して、さらに事業を成長させるために必要な予算をまた確保する、その繰り返しでランウェイを繋いでいってます。
中村:新規事業は仮説検証をして課題を持っているユーザーが見つかり、その課題を解決できそうなソリューションを見つけてから、売上を増やすことを狙うことが多いのがよくやるやり方ですが、meviyの場合、検証しながら、かつ売り上げも上げなければならないという難しい側面があったりします。育てながら勝つみたいな。
芝田:そうですね。私はいわゆる事業オーナーとして、この機能を作ったら本当に売上が伸びるか、という視点でカンバンを見ますし、上司もスクラムの現場に来た時にそう見ています。
中村:最初はタスクボードはあったものの、検証から効果測定までをカバーしたカンバンではなかったんです。
ある時、偉い方が現場に視察に来ることになり。「ちょっといい感じに見せたいよね」ということでカンバンを作ることになって、たった1日でみんな総出で作ったんです。これが意外にはまって、視察に来た方も「これいいやんか」と話をしていました。(笑)
芝田:ばっちりですね。偉い人を連れてきて「うまくいっているので予算ください」というのも僕の役目。演出もあるけど、中村さんに言われたらさすがにそろそろやらなきゃ、ってなりました。
##心が折れたときどうモチベーションを保つか

ーー 会場からの質問:「1回失敗するとPOとして思い切ったことができなくなる、やりたいと言えなくなると思いますが、どうやってモチベーションを保っていたのでしょうか?」
芝田:開発とはちょっと違うんですが、自分たちがいるものづくり業界は今ものすごい転換期で、この流れについていかないと、という危機感がものすごくあります。失敗したままで終わらせていたら自分たちの事業は絶対に衰退する、なので何とかしてやらなければいけない、という思いでした。
中村:心が折れてる暇がない?
芝田:ないですね。今でも正直社内では色々な意見があると思います。けれど、そういう危機感があれば、心が折れている暇がないというか。
趙:失敗は当たり前のことって、みんなスクラムをやる時は分かっていると思っています。お客様が使ってくれなかったりとか、ユーザー数を予定通り伸ばせなかったりとか、色々な状況が発生します。我々2チームありまして、ひとつのチームは1週間、もうひとつのチームが2週間のスプリントでやっていて失敗をしても、来週また新しいやり方でトライできるので、割と心にゆとりが出てきて、失敗も前向きに捉えているかなと思っていますね。
後編はチーム同士で気をつけたことなど、さらに具体的なお話についてお伝えします。
こんなことでお悩みの方はお気軽にお問い合わせください。ギルドワークスのメンバーがお話をお聞きします。
- 立ちあげたい事業があるが、本当に価値があるのかどうか自分で確信が持てない
- 新規事業を立ち上げなければならなくなったが、潤沢な予算があるわけでもないのでどうしたらよいのかわからない
- 企画が実現可能かどうか開発の視点を組み入れながら仮説検証したい
- はじめてのことばかりで右も左もわからない