大阪で『カイゼン・ジャーニー / たった1人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで』の発刊イベントを開催しました

#イベント

2018年2月、ギルドワークス代表の市谷 聡啓とヴァル研究所開発部部長の新井 剛さんが、『カイゼン・ジャーニー / たった1人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで』を上梓しました。今回は大阪での発刊イベントとして、著者の2人が「カイゼン・ジャーニー」にまつわる想いや自身の経験について語りました。

## ■市谷 聡啓「身体化する組織」

### 事業立ち上げや事業作りをしていく中で適した組織、チームとは?

少ない人数でプロダクトづくりに最適な環境を作っていく上でダメな例を3つ紹介しました。
**ダメなパターン1)思考非停止**→考え続ける時間が長く、開発も見込みリスクが大きい。
**ダメなパターン2)残念なプロダクトオーナー**→やれることをやっているだけ。結果、やることはいくらでもあるので、プロダクトのあるべき姿を描けない。
**ダメなパターン3)ハウルの動く城開発**→思い思いに良さそうなことをはじめ、コミュニケーションやプロセスが整わずに混乱してしまう。

自分たちの動き方にバランスがなくなったり、働き方に全体性がなくなりがちになるのは、しょうがないという想いもあります。それでも、ユーザーに価値があるプロダクトを生み出せるかという視点に立った上で、自分たちの動きを制御することに取り組んでいきます。
まず、どう取り組むかを考える上では理想的な組織を明確にする必要があります。

### 組織がひとりの人間のごとく動くこと

理想的な組織の一例として「組織がひとりの人間のごとく動くこと」というのがあります。
人は考えることと行動することが遅滞なく連動しており、プロダクトチームも仮説検証とアジャイル開発を遅滞なく連動させることが理想です。
プロダクトチームのアクションはひとりの人間の思考や行動に似ています。さらにそのプロセスの中では「考えて決めたものを作る」だけではなく**「作っているとわかる」「できたものからわかる」「使ってみてはじめてわかる」**こともあるため、それぞれの段階からのフィードバックを行い、反映させていくことが必要です。
同時に、チームをひとりの人間としてみるなら、作っているプロダクトに宿る感情を大切にしたり、作り手の意欲を問い続けることも大切だと思います。

チームや組織をひとりの人間としてみるメリットは3つあります。
**1)「やっていることの全体性を問える」**
考えると作るを「全体としてイイ感じ」になるように全体設計をするようになる。
**2)「ボトルネックの特定と解決が全体に効く」**
流れの中で何が全体の動きを鈍らせているかが発見しやすくなり、解決しやすくなる。
**3)「追う指標が明確”行き来を早く滑らかに”」**
解決件数よりも流れのスムーズさや開発スピードが大事にするようになる。 

組織を身体化させていく際の課題の1つに「頭と身体が分離してしまいやすい」ことがあります。特にリモートワークだとそれが顕著です。
作る中の気づきがフィードバックされなくなり、チーム内の「感情」が疎通しにくくなり、チームとして分解していってしまう。それを防ぐにはチーム内の結合と同期化を意識的にやらなければなりません。
実際にギルドワークでもフリーランスなど様々なエンジニア、デザイナーとチームを組んで仕事をしますが、月1回、あるいは定期的に集まって合宿をしたりモブプログラミングを実施しています。

そうした状態に辿り着くには、まず成長の流れを想像してシナリオを描くことからスタート。チームがどんな成長をするのか青写真を描き、進んでいる途中でも進路を調整しながら前進することが大切です。ギルドワークスでもこうした取り組みを行っています。

どんなチームもたいてい最初はよちよち歩き。自分自身が指導する立ち位置で入る時に心掛けているのは、頭ごなしに言ったり、感情を無視して言っても、人は伸びないということです。**人には成長スピードがあり、チームも同じ。気づいてやり始められる時点で素晴らしいこと。**それを否定しないようにしています。

最後に、組織の身体化を推進するにあたり、「会社として」「組織として」という言葉は良くありません。その判断は、価値が得られる人を具体的に思い浮かべられるものなのか、もし思い浮かべられなかったり、思い浮かんでも違和感があれば、それはやらなくていいこと。「自分たちとして」、今のやり方やアウトプットで良いのかを判断基準とするべきです。それが組織やチームがひとりの人間に向かう最初の一歩だと思います。

## ■新井 剛さん「心が折れてもソシキ・カイゼンを続けられる、たった一滴の魔法」

カイゼン・ジャーニーの本にも書かれている私自身が経験した話、どう解釈するかは各個人にお任せしたいと思います、という言葉からスタート。

会社でやってきた2つのこととして、アジャイルワークと越境ワークを挙げ、それぞれについて説明。

### 1)アジャイルワーク
2011年から社内をアジャイル化する仕組みをどんどん導入していきました。
アジャイル化する仕組みを導入した理由は、手作業の職人技が大きく社内が疲弊していたのが最も大きな理由で、今も多くの情報を泥臭い集め方で集めています。また、駅すぱあとは30年を迎えたが伸びしろが多い事業だと考えていたことや、職人技は尊敬するが作業の待ち時間や分断プロセスが多い点を改善したいと考えたのも理由でした。
組織改革や組織開発の部分で、アジャイルには変えるヒントがたくさんありました。
ヴァル研究所は、社内のいたる場所に「見える化」でホワイトボードや付箋があり、開発部門のみならず新規ビジネスや販売促進部門や総務部門にもアジャイルが導入されて自己組織化が進んでおり、社労士とスクラムマスターのダブル資格者がいるほど。さらにはモブプログラミングを応用したモブワークを採用しています。

### 2)越境ワーク(会社見学ツアー)
2015年夏頃から自社内を見学してもらう会社見学ツアーを行っています。これまで200社600名ぐらいの方々が参加しました。ただ、見学者が多いのはオシャレな今ドキの会社だからではありません。ビルも全然オシャレじゃない。高円寺という場所にあって創業以来42期目で60歳代の社員もいるような、どちらかというと昭和スタイルの会社です。そんなヴァル研究所を見学してくれた皆さんから「Joy,inc.!」だとか「日本のメンロー・イノベーションズ!」と言ってもらえることは、最高の喜びのひとつでもあります。

### アジャイルワークと越境ワークを続けてこられたのは3つの価値観を持っていたから

**1)学ぶことが好き**
知的好奇心が旺盛で、子どもの頃から学ぶことは良いことだと刷りこまれてきた。
**2)コーチの経験**
少年サッカーコーチの経験が役に立った。アジャイルの自己組織化と同じように子どもたちが自分で考えて行動している。教育者になることで、自分を律する大切さを学べた。
**3)オーストラリア大陸の教え**
1日1ドル以下(80円以下)で生活していた。考え方は人によって違うことを知った。
この3つの価値観が備わっていたから続けてこられた。

さらに、心が折れても続けてこられたワケは2つはあります。
**続けられる理由1)社内の仲間がいるから**
勤務時間内に集まる社内QCサークルがある。さらにアジャイル推進委員会をはじめ、20歳から50歳代のメンターが近くにいるなど、社内に仲間が多かったから続けてこられた。
**続けられる理由2)コミュニティーの仲間との出会いがあるから**
会社の利益に直接はつながらないが、宣伝効果やヴァル研究所を好きになってもらえるきっかけにはなればという想いに加え、アジャイル界への恩返しでもある。さらに社内イベント開催などでは尊敬する多くの賢人にお世話になるなど、アジャイルのコミュニティーの仲間が大きな励みになっています。

### 「心が折れても続けられる方法論」

自分も最初はひとりぼっちで改革に取り組みました。カイゼン・ジャーニーにはその経験を投入しています。さらに、ひとりの時、チームの時、みんなを巻き込む時、それぞれの行動パターンを紹介し、それぞれの価値と原則とプラクティスを紹介しているので、どんな状況の人も参考してほしいと考えています。

### 一滴の魔法の話
資本主義の中で生きることの本質とは何かを考えると、資本主義時代の歴史はまだ数百年と短い。ならば、人間の本質的な生き方は資本主義時代になる前の生き方なのではないか?と考えると、人間に必要なものはお金や名声や権力などではなく「小さな喜び」だと思われる。そして仕事は「小さな幸せ」を提供したり、笑顔を生み出すためにやるものと考えています。

魔法の一滴目としては、毎朝鏡の前で「今日どんな未来が待っているか」「今日どんな貢献ができるか」といった呪文を唱えること。これにより確定バイアスや認知バイアスと呼ばれるものが働き、好きなモノだけが目に飛び込んでくるようになります。
魔法の二滴目は「好きな人」を増やすこと。Give&Giveを一生懸命、継続することで人は輝くと信じています。思考の質が変われば、行動の質が変わり、結果の質が変わり、最終的に関係の質が変わる。これがループすることで、結果的に組織の中に良い循環が生まれます。

今の仕事がアジャイルを好きな自分の選択であることを含め、すべてを自分で選択したことで今がある。当時の自分が選んだのなら、たとえ今は違う気持ちであっても割り切るしかなく、むしろ好きになるしかないという話をしました。

## 質疑応答・イベント終了後

最後に質疑応答が行われ、2人は多くの質問に対して丁寧に回答していました。イベント終了後も、多くの人が二人のもとに集まって熱心に質問するなど、イベントは盛況の中で終了しました。
ギルドワークスは、今後もクライアント様が「正しいものを正しくつくる」ために、開発現場の取り組みをサポートしてまいります。